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[2019.12]ジョアン・ジルベルト ディスコグラフィー完全版

文●中原 仁 text by JIN NAKAHARA 

ジョアン・ジルベルト(1931年6月10日~2019年7月6日)のキャリアは50年、バイーアからリオに来て参加したヴォーカル・グループ、ガロートス・ダ・ルアからスタートした。同グループの2枚のSP盤(51年)ではサンバ人のゼー・ケチ、ウイルソン・バチスタの楽曲も歌っている。

 初のソロ録音は52年のSP盤「Quando Ela Sai」「Meia Luz」。叙情的なサンバ・カンサォンの楽曲で、歌唱スタイルは10代から敬愛していたオルランド・シルヴァの直系。53年には自作のサンバ・カンサォン「Você Esteve Com Meu Bem?」をマリーザ・ガタ・マンサが録音。この曲は、カエターノ・ヴェローゾが95年のライヴ盤『Fina Estampa Ao Vivo』で歌って広く知られるようになった。

 その後、リオを離れて引きこもり、ギター1本でサンバのリズムとシンコペーションを表現し高度で洗練されたハーモニーを配した 〝バチーダ〟と呼ばれる独自のスタイルと、耳元で囁くように語りかける歌唱法を生み出し、再びリオに戻ってアントニオ・カルロス・ジョビンと再会。58年4月、ジョビンが編曲指揮を手がけたエリゼッチ・カルドーゾのアルバム『Canção do Amor Demais』の、「Chega de Saudade」と「Outra Vez」の録音にギタリストとして参加した。これがボサノヴァ誕生前夜の記録になる。

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<1> Chega de Saudade (1959)

 ボサノヴァ誕生を告げた①(58年7月録音)、歌詞の中に歴史上初めて〝ボサノヴァ〟の言葉が登場する⑦(58年11月録音)。これらシングル曲に59年2月の録音を加えたファースト・アルバムで、音楽監督とピアノはジョビン。ジョビンとカルロス・リラの作品の他に、サンバの名曲が3曲(⑪はオルランド・シルヴァのヒット曲)。〝声とギター〟の至芸は完成しており、⑥での親指のベースラインと他の指が奏でるリズムやハーモニーとのコンビネーション、⑫の疾走感あふれるギターと、微妙にタイミングをずらした前のめりな歌が織りなすシンコペーションなど多彩だ。先行シングル盤のB面に配されたジョアンの自作の⑩ではサンバともバイアォン(この言葉は歌詞に登場)とも言い切れないリズムを奏で、後半にコーラスが加わる④ではジョアンのルーツをうかがい知れる。今の耳で聴くと打楽器のチョイスやリズムなどアレンジ面の古臭さも感じるが、音楽史を塗り替えたアルバムとしてマイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』やビートルズの『サージェント・ペパーズ…』などと並び称される聖典だ。

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