ブラジル音楽界の至宝、カエターノ・ヴェローゾの約9年ぶりとなる新作『メウ・ココ』が本日デジタル・リリース!
■アルバム『メウ・ココ』の試聴はこちらから。
ラテン・グラミー賞を13回、グラミー賞「最優秀ワールド・ミュージック・アルバム」を2度受賞したブラジルを代表するシンガー・ソングライター、カエターノ・ヴェローゾが『アブラサッソ(Abraçaço)』以来、約9年ぶりとなる新作『メウ・ココ(MEU COCO)』を本日デジタル・リリースした。本作はソニーミュージック移籍第1弾アルバムとなる。また、アルバムのフォーカス・トラックとなる「Sem Samba Não Dá(セン・サンバ・ナォン・ダー) 」のミュージック・ビデオも公開となる(※日本時間10月22日午後11時公開予定)。
■カエターノ・ヴェローゾが自身の言葉で語る『メウ・ココ』のコンセプト
曲を作りすぎたと思ってしまうことがよくあるんだ。几帳面さに欠けているのか、批評を度外視しているのか……そうかもしれないな。実際私は子供の頃からポピュラー・ソングが大好きだった。簡単に数が増えていくところも気に入っていた。歌を楽しむ者は量の多さを楽しむものなんだ。子供時代のラジオに始まって、テレビ、レコード、初期のMTV、そしてマルチショー(注:Multishow、ブラジルのケーブル&衛星放送のエンタテインメント・チャンネル)の『TVZ』まで、私は小さい曲がたくさん歌われるという多様性が大好きだ。冗長で混沌としているように見えることがあったとしてもね。私が新作のアルバムを出してから9年になる。2019年の暮れ、私は自分の新しい曲を録音したいという強い意欲にかられた。すべてはギターのあるビートから始まった。それは(私が夢見た通りに演奏された場合)世界のどこにいるどんなオーディエンスにとってもオリジナルに聞こえるであろうもののアウトラインを描くように思われた。その結果生まれたのが「メウ・ココ」という曲だ。そのアウトラインのビートにブラジル人女性の名前を数多く連ねたメロディを加えることにより、サンバのリズムがシンプルでハードな細胞へと分解された。私はこの夢のリフを実体のある目新しいものにするためにふさわしい音質を見いだそうとした。また、そのリズム、サウンド、機能が決定的に体現されるのは、バイーア民俗バレエ団(Folkloric Ballet of Bahia)のダンサーたちがギターのアウトラインに基づいたジェスチャーを作ってくれた場合しかあり得ないと確信していたんだ。私はそのことを念頭に音質などを見いだしていった。だが2020年がやってきて(新型)コロナウイルスにCovid-19などと名前がついて、私はリオで身動きも取れず、ダンサーたちに交渉しに行くバイーアへの旅も延期になってしまった。2、3ヶ月待てばいいだろうか?
1年以上が過ぎ“メウ・ココ”(私の頭)から生まれたように思われた曲を作り終えた私は、自宅スタジオでレコーディングを開始する必要があった。私はルーカス・ヌネス(Lucas Nunes)にプロジェクトに着手するように頼んだ。彼はとても音楽的で、ミキシング・コンソールを操ることができるのだ。私たちは『メウ・ココ』に着手した。要のようなものになっているのが「Enzo Gabriel (エンゾ・ガブリエウ)」だ。このテーマ(タイトル)は、2018年と2019年のブラジル人新生児の出生届に一番多く選ばれた名前なんだ。新曲を書くにあたって、私はあることの理由を調べようと誓った。それは私以前の世代において、質素な生活を送るあまり学のない人々…その大半は黒人だった訳だが、彼らが子供に洗礼を受けさせるときに、アメリカ人大統領の英語名を選ぶことが多かったことだ。貧しい黒人のブラジル人の親たちにとってはジェファーソン、ジャクソン、ワシントン……それからウェリントン、ウィリアム、ハドソンといった名前が望ましかったのだ。これについてはまだ何もやっていないが、このアルバムの準備が整ってリリースも決まった今、必ずや社会学者のように研究しようと思う。また「Anjos Tronchos(アンジョス・トロンショス~歪んだ天使たち) 」は私たちにノートパソコン、スマートフォン、そしてインターネットを与えてくれたテクノロジーの波を取り上げた考えさせられる曲についても、もっとその題材について文献を読もうと心に決めている。
新作の楽曲にはそれぞれに強烈な命が宿っている。「Anjos Tronchos(アンジョス・トロンショス~歪んだ天使たち) 」が前作『アブラサッソ(Abraçaço)』と音的に似ているとすれば、「Sem Samba Não Dá(セン・サンバ・ナォン・ダー) 」はプレチーニョ・ダ・セリーニャ(Pretinho da Serrinha)のように聞こえるエキスパートの弾いたベースが、メストリーニョ(Mestrinho)のアコーディオンと相まって、セルタネージャ(sertanejo)音楽(注:ブラジル農村地帯の伝統的な音楽)と伝統的なサンバが融合する。「você(あなた)」という言葉を使う使わないで優れた若手ファド(注:ポルトガルの民族歌謡)・シンガーのカルミーニョ(Carminho)と言い合いになったことがきっかけでできたのが、ブラジル風のファド「Você-Você(ヴォセ・ヴォセ) 」。彼女は結果として私とデュエットすることになり、ポルトガルのギターの代わりにアミルトン・ヂ・オランダ(Hamilton de Holanda)のバンドリン(セージ・マンドリン)を勝ち取った。
「Não Vou Deixar(ナォン・ヴォウ・デイシャール) 」はラップをベースとした曲で、ルーカスのピアノにより作られた。歌詞は政治的抑圧の拒絶が会話形式の恋愛トーンで描かれている。「Pardo(パルド) 」はそのタイトルが既に示唆するように、今の世の中で人種問題を語る際の言葉遣いに関する考察。アレンジはバイーア出身のレチエレス・レイチ(Letieres Leite)が手掛け、リオデジャネイロ出身のマルセロ・コスタ(Marcelo Costa)のパーカッションがフィーチャーされている。「Cobre(コーブリ) 」は肌の色がポルト・ダ・バーハ(Porto da Barra)の午後の海に反射する太陽に張り合う様子を歌ったロマンティックなラヴ・ソング。救いようのないロマンチストのジャキス・モレレンバウム(Jaques Morelenbaum)がオーケストレーションを手掛けてくれたが、彼は「Ciclâmen do Líbano(シクラーメン・ド・リーバノ) 」のアレンジも手掛けており、こちらでは中東的なフレージングに(アントン・)ヴェーベルンが散りばめられている。ルーカスには私の息子トムのおかげで出会えた。ふたりはドニカ(Dônica)というバンドのメンバーなのだ。新しい批判的な視点は息子のゼカ(Zeca)に、「GilGal(ジウガウ) 」の強烈な美しさは息子のモレーノ(Moreno)に借りがある。モレーノはカンドンブレ(candomblé)(注:ブラジルの民間信仰由来の舞踊音楽)のリズムをセットして、私が既に描き出していたメロディと歌詞を加えられるようにしてくれたが、これはパーカッションが加わって初めて実現した。そしてこの歌は類まれな才能を持つドラ・モレレンバウム(Dora Morelenbaum)と一緒に歌っている。
本作は量と強烈さのアルバムだ。「Autoacalanto(アウトアカラント)」は1歳になった孫息子を描写したものなんだ。孫の父親であるトムが私と一緒にギターを弾いている。母船の「Meu Coco(メウ・ココ) 」は思い描いたリズムをいくつかキープして、マルシオ・ヴィクトル(Márcio Victor)にパーカッションで実現してもらったが、この曲を輝かせるオーケストラのアレンジはリオデジャネイロ出身の若きクリエイター、チアーゴ・アムーヂ(Thiago Amud)の手によるもの。彼の存在はブラジル人のポピュラー・ソング愛の誠実さをすべて物語っているんだ。
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カエターノ・ヴェローゾはラテン・グラミー賞受賞歴の最も多いブラジル人アーティストであり、獲得したトロフィーは合計13回。さらに2012年にはアカデミーにより「パーソン・オブ・ザ・イヤー」として表彰された。50作以上のアルバムを発表し、ペドロ・アルモドヴァル(Pedro Almodovar)監督の『トーク・トゥ・ハー(Hable con Ella)』やジュリー・テイモア(Julie Taymor)監督の『フリーダ』といった映画のサウンドトラックでコラボレーションを行ってきたカエターノ・ヴェローゾが、アーティストの彼の頭の中を旅する作品になるという新作『メウ・ココ』でシーンに戻ってきた。
【収録曲】
01. Meu Coco(メウ・ココ)
02. Ciclâmen do Líbano(シクラーメン・ド・リーバノ)
03. Anjos Tronchos(アンジョス・トロンショス~歪んだ天使たち)
04. Não Vou Deixar(ナォン・ヴォウ・デイシャール)
05. Autoacalanto(アウトアカラント)
06. Enzo Gabriel (エンゾ・ガブリエウ)
07. GilGal(ジウガウ)
08. Cobre(コーブリ)
09. Pardo(パルド)
10. Você-Você(ヴォセ・ヴォセ)
11. Sem Samba Não Dá(セン・サンバ・ナォン・ダー)
12. Noite de Cristal(ノイチ・ヂ・クリスタウ)
■先行シングル「アンジョス・トロンショス~歪んだ天使たち」 ビデオクリップ
【カエターノ・ヴェローゾについて】
バイーア出身のシンガー・ソングライター、カエターノ・ヴェローゾは、ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ(MPB) の最重要ミュージシャンの1人である。彼をボブ・ディラン、ボブ・マーリー、ジョン・レノン、ポール・マッカートニーに匹敵する20世紀最高のソングライターの1人と見なす向きもあるが、本人はそのような同業者たちはおろか、同胞のトム・ジョビンはもちろん、ミルトン・ナシメント、ジルベルト・ジル、ジャヴァンといった面々の基準にも適っていないと謙遜している。
ボサ・ノヴァ・ムーヴメントの象徴的存在にして創始者の1人であり、MPBとして知られるようになった音楽スタイルに寄与したジョアン・ジルベルトに影響を受けたカエターノのキャリアは、ボサ・ノヴァを解釈することから始まった。カエターノは反体制文化と繋がりのあったトロピカリア(Tropicália)・ムーヴメントの中で存在を確立していった。ブラジル人プロデューサー、アレンジャー、ライターだった若きカエターノは、トン・ゼー(Tom Zé)、自身の妹マリア・ベターニア(Maria Bethânia)、ガル・コスタ(Gal Costa)、自身のパートナー、ジルベルト・ジルとともにセミ・アマチュアのショウに参加した。初めて手掛けた音楽作品はアルヴァロ・ギマラインス(Álvaro Guimarães)がサルヴァドールで監督した劇『A exceção e a regra(例外とルール)』のサウンドトラックだった。彼のキャリアは既に50年を超えている。
1965年、バイーア出身の彼は妹マリア・ベターニアの出演したミュージカル『オピニオン(Opinião)』の全国公演に同行することからプロとしてのキャリアをスタートさせた。その後まもなくポピュラー音楽のフェスティヴァルに出演したり、映画のサウンドトラックを手掛けるようになる。1967年にはガル・コスタと初めてのアルバム『ドミンゴ』をリリース。同年トロピカリア(注:TropicalismoとTropicáliaは同義)・ムーヴメントを率いている。カエターノは1960年代以降最も影響力の高いブラジル人アーティストの1人と見なされており、「ポスト・モダンの吟遊詩人」と呼ばれている。50作以上のアルバムを発表し、ペドロ・アルモドヴァル監督の『トーク・トゥ・ハー』やジュリー・テイモア監督の『フリーダ』といった映画のサウンドトラックでコラボレーションを行ってきたことにより、2004年には世界で最も尊敬を集め多作なラテン・アメリカ系ミュージシャンの1人と見なされた。リラ・ダウンズと共演した『フリーダ』の挿入歌「バーン・イット・ブルー」は、2003年のアカデミー賞のベスト・オリジナル・ソング部門にノミネートされている。同年の授与式にはカエターノがメキシコ人のリラとパフォーマンスを披露した。
カエターノ・ヴェローゾはキャリア全体を通じて、世論を最も大きく動かす、最も論議を呼ぶ人物の1人にもなった。彼にはラテン・グラミー賞を13回、アメリカのグラミー賞を2回など多くの受賞歴があるが、中でも第24回ブラジリアン・ミュージック・アワードではアルバム『アブラサッソ(Abraçaço)』がポップ/ロック/レゲエ/ヒップホップ/ファンク部門最優秀歌唱賞と最優秀ビジュアル・プロジェクト賞の2冠を獲得した。
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