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[2017.05]イサオ・ナカムラ 〝打楽器の世界〟

文●中原 仁

 長年、ドイツを拠点に現代音楽の打楽器奏者として活躍し、カールスルーエ国立音楽大学の教授もつとめている中村功(イサオ・ナカムラ)が11月、東京でソロ・リサイタル「イサオ・ナカムラ 〝打楽器の世界〟」を開く。

 中村功は、日本のサンバ・パーカッション奏者の草分けでもある。1958年、大阪で生まれ、少年時代から地元の祭りで太鼓を叩き、京都市立堀川高校音楽科(現・堀川音楽高校)から東京芸術大学打楽器科に進学して間もなくサンバと出会い演奏を始めた。

 第一次ブラジル音楽ブームの当時(70年代末)、都内の各大学にサンバなどのブラジル音楽を演奏する学生が大勢いた。今も活躍している同世代の音楽家が笹子重治、服部正美、岡部洋一(以上、早稲田大学)、秋岡欧、安井源之新、ヤヒロトモヒロ(以上、上智大学)、渡辺亮(武蔵野美術大学)など。まさに〝レジェンド世代〟なのだ。

 本誌で中村功のインタビューを行なうのは84年1月号以来、実に33年ぶり。そのとき「野望としては、国際的なスケールでいろいろやっていきたいな」と力強く締めくくった当時20代半ばの彼は、有言実行を貫き現在に至っている。

中村功6XXX

—— そもそもサンバに出会ったきっかけは?

中村 大学で小泉文夫先生の民族音楽の授業があって、サンバのレコードをかけてくれたときに頭のてっぺんから足の先まで 〝ウーッ!〟となって、これは僕がやる音楽だ! と思って。小泉先生のゼミで採譜を勉強していたので、サンバのバトゥカーダを聴いて音を楽譜にして、打楽器科の学生と一緒に美術学部の構内に行って演奏していたらウケたんですよ。それを偶然、美術学部の永武哲弥さんが聴いて「面白かったけど何もサンバのこと分かってないね」と言われて、彼がやってたアマチュアのサンバのグループの練習に行って一緒に勉強していったんです。

—— 小泉先生の授業で世界中の様々な音楽と出会いましたよね。その中で特にサンバに惹かれた理由は何だったんでしょうか?

中村 バトゥカーダという打楽器だけの音楽だったこともあるかもしれないけれど、自分の体から出すエネルギーって何だろうと考えてたときに偶然、サンバを聴いて、他の音楽よりもこれをやりたいと。頭で考えたんじゃなくて爆発したって感じですね。その後、ガル・コスタ、クララ・ヌネスとノッソ・サンバが来日して、僕がプラッサ・オンゼで演奏していたときにクララ・ヌネスが旦那(注:詩人パウロ・セーザル・ピニェイロ)と一緒に来たりして、それからバトゥカーダだけでなくポピュラーなサンバも聴くようになりました。

—— 卒業後はクラシックからサンバからミュージカルまで、いろんな分野でプロの打楽器奏者として活躍してきましたよね。その後の大きな転機がヨーロッパに渡ったことだと思いますが、どういう動機だったんですか?

中村 大学を卒業するぐらいからクラシック以外の仕事も始めて、歌謡曲のバックバンド、ミュージカル、劇団四季、スタジオ・ミュージシャンもサンバもやってきたんですが、4、5年経った頃、これを僕は一生やっていきたいのかなと思って、大学の頃からの夢だった留学を考えるようになりました。経済的には何の問題もなかったし、音楽の仲間からは「なんで続けないの?」と言われましたが、一回ゼロに帰ってみたい、で、その後で考えよう、というのが動機でしたね。それでストラスブールのパーカッション・アンサンブルに短期留学して、そこからドイツのフライブルグの音大に留学しました。最初は10カ月したら帰ろうと思っていて、劇団四季から青山劇場が出来たので帰ってこないかっていう誘いもあって悩んだんですが、また日本に帰ったら日本の生活に染まってしまう、ヨーロッパにいればしがらみもないし一日中、音楽のことだけ考えていられるので結局、断って5年間、一度も日本に帰らず、大学院とソリスト科を卒業して講師になりました。

—— 同時に現代音楽の分野で打楽器のソリストとしても活躍を始めました。

中村 大学で教えながら、ドイツで盛んだった現代音楽のシーンに入っていきました。まだオリヴィエ・メシアンが生きていた頃、メシアンの管弦楽曲「峡谷から星たちへ」でソリストをつとめたのが最初の頃の仕事で、その後、シュトックハウゼンともジョン・ケージとも5年間、カーゲルとは20年間、一緒にやってきて、作曲家と一緒に世界初演の曲をやることが多くなって、作曲家と一緒にやることの面白さですよね。作曲家が書いた楽譜っていうのは冷たいもので、なんの感情も入っていない。でも楽譜の後ろにいる作曲家の血の流れや暖かさが分からないと演奏できない。そうして作曲家と一緒にやっているうちに楽譜の読み方がだんだん分かってきて、今だったら楽譜を見ただけで作曲家の意図が分かるようになりました。

—— スゴい人たちの名前が次々に出てきましたけど、先生そして打楽器奏者として活動してきた中に、学生時代にサンバを演奏していた経験も反映されていますか?

中村 やっぱり体で音楽をするという意味では、クラシックの打楽器奏者は腰から上でしか演奏しないんですよ。でも僕は、打楽器奏者に大事なのは足の裏から、自分の体が持ってるメトロノームを表現しながら演奏することで、腰から上だけの演奏ではもったいないと思っていたんです。92年にカールスルーエ音楽大学の教授になってから、地べたが太鼓で足が腕だっていうふうに置き換えて学生たちに教えてきました。サンバのブレイクをクラシックの中に取り入れて勉強させたり、もっと動けよ、と。そうすると生き生きした音楽になるんですよ。打楽器のアンサンブルを教えるときも、指揮者なんかいらない、みんなで足踏みして、足踏みの感覚さえ合えば音楽は出来るよっていうやり方でずっと教えてきました。それはやっぱりサンバの影響が大きかったと思います。

—— 長い歴史のある大学で、そういうメソッドで教えた先生は初めてだったんでは?

中村 偶然なんですが、僕が教授の試験に合格したときの学長がブラジル人の女性だったんです。後から学長に「僕はサンバが出来る」って言ったらビックリしてました。その後、2011年と2013年にリオデジャネイロ州立連邦大学(UNIRIO)で教える機会があって、最初はベートーベンなどを教えていましたが「ちょっとサンバやろうか」って言ったら、学生たちは僕をドイツ人の先生だと思ってるんでビックリして「なんで?」と聞くから「東京でサンバやってたんだ」(笑)。で、やってみたら意外にすぐ一緒に楽しめて。UNIRIOで土曜日にやってるショーロの学校も見に行きました。最後に生徒全員、100人以上ですよね、屋外の岩の下に集まって演奏するのを見られたのは良かったです。

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イサオ・ナカムラ “打楽器の世界”                  The World of Percussion by Isao Nakamura
@ヤマハホール(銀座)2017年11月11日(土) 開演:18:00
公演概要:ドイツを中心に活躍する、ヨーロッパで最も信頼と評価の高い打楽器奏者、イサオ・ナカムラがヤマハホール・コンサート・シリーズに初登場!
クラーニッヒ・シュタイナー音楽賞、青山音楽賞特別賞、佐治敬三賞を受賞、現在は、ソリストとして活動する傍ら、カールスルーエ音楽大学教授、京都市立芸術大学客員教授を務めています。
本公演では、5台のティンパニ、小太鼓、マリンバ、コンガ、ハイハットシンバル、ビリンバウ…と様々な打楽器を操り、ナカムラの為に作曲された世界初演を含む楽曲の披露や彼の音楽ルーツでもあるサンバミュージックまで、打楽器尽くしの内容をお届けします。
響き豊かなヤマハホールにて、打楽器の魅力に引き込まれる一夜をお楽しみください。
演奏曲目F.トメー:ソロ打楽器のための“君が行く時、水を感じる?” ※世界初演
D.シュネーベル/イサオ・ナカムラ:ソロ打楽器のための エクスタシス “マラソンランナー”(改訂版) ※世界初演
R.ベルナルディー:ソロティンパニのための“グラツィオーゾ” ※日本初演  ほか


—— 最後に11月のリサイタルについて、決定している曲目を中心に紹介してください。

中村 まずフランク・トメーの「ソロ打楽器のための〝君が行く時、水を感じる?〟」。昔、打楽器の生徒だったフランク・トメーが僕のために書いてくれた曲で、世界初演です。マリンバやヴィブラフォンは使わず打楽器だけ15~20種ぐらいを操って、いろんなポリリズムを演奏して最後はビリンバウに行く予定です。

 「ソロ打楽器のためのエクスタシス〝マラソンランナー〟 」は、シュネーベルが作曲してオーケストラと合唱団とソプラノのソリスト、そして僕が打楽器のソリストで初演した曲の打楽器ソロ版、さらにその改訂版の世界初演で、彼の曲をもとに僕が仕上げたので共作ということになっています。

 ベルナルディーの「ソロティンパニーのための〝グラツィオーゾ〟」も僕のために作られた曲で、5台のティンパニーを演奏します。

 現代音楽だけでなく、僕のルーツであるサンバも演奏します。みんなで一緒に歌ったり叩いたりする楽しさをリサイタルの中に入れていきたいので、お客さんに小さな打楽器を配って叩き方を教えて一緒に演奏する、そういうコーナーも作ります。外から見た〝現代音楽の中村〟だけでなく、サンバが好きな自分、太鼓が好きな自分を表現していきたいと思っているし、最後は僕も客席に降りてみんなで一緒にサンバ。そんなリサイタルにしたいと思っています。

 都内のライヴハウスで満面の笑みを浮かべてサンバを演奏していた時代から30数年。世界的な巨匠となった今も、内に秘めた旺盛な好奇心がうかがえる瞳の輝きは変わらない。「イサオ・ナカムラ〝打楽器の世界〟」の公演サイトには「ガンザ、パンデイロ、タンボリンなどの小物打楽器をご持参いただいても構いません。公演当日会場にてリズムを奏でることができる楽器を配布いたしますが、数に限りがございます」と明記されている。

(月刊ラティーナ2017年5月号掲載)

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