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[2017.04]世界の音楽情報誌「月刊ラティーナ」創刊満65年記念|岸田繁(くるり)が選ぶワールド・ミュージック傑作アルバム65選

 世界の音楽情報誌「月刊ラティーナ」は、前身である「中南米音楽」から数えて、本号で 創刊から満65年となりました。

 満65年号の特別企画として、結成から20年、日本の音楽シーンの第一線で活動し、主催する京都音楽博覧会でも積極的に世界中の音楽家を紹介されているグループ「くるり」の岸田繁さんに、「ワールド・ミュージック」の中からというリクエストで、オールタイム・フェイバリットを65枚選んでいただき、それぞれのアルバムにコメントをいただきました。更に、それぞれのアルバムに、書き手の方々に解説を加えてもらっています。

 月刊ラティーナは、「世界の音楽情報誌」という言葉を冠にしています。ブームの頃に比べて、「ワールド・ミュージック」を聴いている人は随分と減ってしまっています。今「ワールド・ミュージック」という言葉に敏感に反応する人はどれだけいるのでしょうか。むしろ、「ワールド・ミュージック」という言葉で、そこに分類される音楽を敬遠してしまう人も多いのが現実なのではないでしょうか。それならば、古めかしいイメージのついてしまった「ワールド・ミュージック」に代わる言葉があればいいのではないかと思うこともありますが、そう簡単にもいきません。
 
 本特集では、世界には、こんなに素晴らしい音楽があるということを、岸田繁さんの選盤と、書き手の方々の解説を通じてお伝えできればと思います。世界中の音楽に興味を持ってくれる人が、増えてくれることを願ってやみません。 

 祝・創刊満65年。全ては、読んで下さる皆様のおかげです。

 月刊ラティーナが、ないよりはあって良かったと、一人でも多くの人に思ってもらえるように、精進していきます。近くの人に、弊誌のことを紹介していただければ、大変嬉しいです。
(創刊満65年、通巻758号|編集部)

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01. AMALIA RODRIGUES『COM QUE VOZ』

毎朝聴きたいCDです。ファドの女王の音源の中ではカラッとしてます。(岸田)

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●ファドはポルトガル文化を象徴する音楽だが、そのファドというジャンルとほとんど同一化してしまったようにも見える大歌手が、アマリア・ロドリゲスである。亡くなって既に18年も経つが、その巨峰があまりにも高すぎるが故に、今なおファドを歌う者は誰もが彼女と比較されてしまう宿命にある。アマリアの歌手としての全盛期は60~70年代だが、中でも生前自ら「完璧なレコード」と自認していたのが、70年に出た本作である。当時彼女は50才。円熟の至芸を収めた紛うことなき最高傑作だ。現在は、未発表音源(66~68年録音の、オリジナル盤収録曲の青写真的別テイクが中心)を集めたボーナス盤を追加した2枚組再発盤がお買い得だ。(松山晋也)

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02. JAN JOHANSSON『JAZZ PÅ SVENSKA』

毎晩聴きたいCDです。スウェーデンのトラッドをジャズにするととても素敵。(岸田)

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●スウェーデンでは音楽好きに限らず、今も老いにも若きにも「ヨンさん」(ヤンではなくてヨンらしい)と呼ばれ親しまれているピアニスト、ヤン・ヨハンソン。「誰もが知っている」レベルのジャズ作曲家としてはマイルスやポーランドのクシシュトフ・コメダと並ぶ存在だ。本作は、彼のライフワークとなった民謡のジャズ化シリーズとして、管楽器も参加したロシア民謡集、デンマークのヴァイオリン奏者スヴェンド・アスムッセンとのハンガリー民謡集に先駆けて録音されたスウェーデン民謡集。ウッドベースとのデュオでシンプルに綴られるインテリア感覚のかわいいジャズ。ノルウェイ映画「キッチン・ストーリー」のエンドタイトルでも1曲使用された。(オラシオ)

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03. QUARTETO EM CY『ANTOLOGIA DO SAMBA CANÇÃO』

日曜日に聴きたいCD。コッテリとしたハーモニーと哀愁漂う感覚。これをサウダーヂと呼ぶのか。(岸田)

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●ボサノヴァの源流となるサンバ・カンサォン(抒情的なバラード系サンバ)の名曲を、作曲家別にメドレーで歌った75年盤と76年盤。ノエル・ホーザ、アリ・バホーゾからジョビン、カルロス・リラまで20人の作曲家を選び個々の略歴をジャケットに記した、まさにアンソロジーと言える作品だ。時に感情過多に歌いあげられることもあるサンバ・カンサォンだが、クアルテート・エン・シーは持ち前の高度なハーモニーを駆使しながらも原曲の旋律を生かし、清らかな歌ごころを存分に発揮している。中でもガロート作品のメドレーは絶品。ボサノヴァ末期にデビューした彼女たちがMPB全盛期の中、再評価されるきっかけとなった記念碑でもある。(中原 仁)

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04. ALEXANDRE ANDRÉS『MACAXEIRA FIELDS』

最もクリエイティブなポップミュージックのひとつ。(岸田)

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05. RACHID TAHA『ZOOM』

最もパンキッシュなポップミュージックのひとつ。(岸田)

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●今や欧州で最も深刻な移民問題に揺れるフランスだが、マグレブ他旧植民地からの移民たちが自分たちの怒りや苦悩を本格的に歌いだしたのは80年代初頭からだった。その嚆矢となったのが81年にリヨンでラシッド・タハを中心にアルジェリア移民の子弟たちが結成したカルト・ド・セジュールだ。タハはバンド解散後の90年代以降は更に旺盛に活動を続け、仏におけるアラビック・ロックの象徴的存在にもなっている。これはプロデューサーにジャスティン・アダムズを迎えた、現時点での最新作。シャアビやファンクやテクノなど様々な音楽様式が沸騰交錯する混血サウンドの中で、敬愛するクラッシュ/ジョー・ストラマーの遺伝子が躍動している。(松山晋也)

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