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[2020.03]『娘は戦場で生まれた』『プリズン・サークル』 『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』。 3本のドキュメンタリー映画が描く生と死とは?

文●圷 滋夫 text by SHIGEO AKUTSU

 〝アラブの春〟の翌11年にシリアでも始まった民主化運動は、やがて軍事的な対立、そして内戦へと移行し、第二次大戦以降で最悪の人道危機と言われながら、今も全く先が見えない状況だ。『娘は戦場で生まれた』はそんなシリア内戦を背景に、第二の都市アレッポで当時まだジャーナリストに憧れる学生だった監督ワアド・アルカティーブが、スマホで撮影を始めた戦火の記録だ。12年の学生の反政府運動から、ロシアの空爆が激化し阿鼻叫喚の地獄が現れる16年迄、自由のためにこの地に留まって戦い続けた4年間が描かれている。

娘は_メイン

『娘は戦場で生まれた』 

 ここで紹介する3本の中では最も直接的な死に近い作品で、普通〝言葉で言い表せない〟のは複雑な「感情」だが、本作では「状況」も同様に、想像を遥かに超えた筆舌に尽くし難い死に様が目の前に現れる。アサド政権の拷問や虐殺、無差別爆撃によって一瞬にして仲間や友人の生が死に変わり、病院には老若男女の区別なく血まみれの怪我人が運び込まれ、何人もの遺体が整然と並べられている。そしてその間を遺族が泣き叫びながら亡霊のように彷徨い、美しかったアレッポの街は瓦礫の廃墟と化してゆく。

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