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[2017.06]【第5回 カンツォーネばかりがイタリアじゃない】The Winstons: ウィンストンズとかわむらぐん

文● 二宮大輔

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 初めてぐんさんに会ったのは、もう5年以上前のことだ。彼はKAWAMURA Gunの名義でローマを中心に活動する日本人ミュージシャンで、私とは在伊日本人ミュージシャンという共通項から、フェイスブックを通して知り合った。本文では、敬意と親しみを込めて彼を「さん」付けで呼ばせてもらう。

 さて、まず目を引いたのがその独特の見た目だった。待ち合わせ場所のピニェート通りに颯爽と現れた彼は、長身に腰まであるまっすぐ伸びた黒髪、柄シャツにベルボトムのズボンといういでたちだった。地元ミュージシャンの間でも一目置かれる存在で、名前は前々から聞いていたのだが、会ってみると、まさしく異彩を放っていた。年齢不詳の彼は初めて会ったその日は、知り合いが経営するカフェで、ビートルズやグラム・ロックについて熱く語ってくれた。その語り口はとにかく辛辣。イギリスの流行の真似ばかりするローマのインディーズ・シーンを嘆いていた。只者ではない雰囲気で人を魅了する彼はいったい何者なのか。私は根本的な疑問を解消しようと、思い切って「仕事は何をしているんですか?」と尋ねてみた。するとさらなる疑問が生じる答えが返ってきた。「俺、絵を描いているんだよね」

 ぐんさんの正体は画家だったのだ。ローマの新しい文化拠点ピニェート地区を舞台に、「恥ずかしがり屋のヌーディスト」という奇妙なキャラクターをモチーフにした油絵を描いており、折に触れ個展も開いている。絵を描いているのはわかったが、それで生計が立てられているのか? イタリアでの滞在許可はどうなっているのか? 多くの謎を置き去りにしたまま、ぐんさんとの交友関係は数年続いた。そして今年の春、すでに日本に帰国していた私のもとに吉報が届いた。芸術性の高いレコード・ジャケットに贈られるベスト・アート・ヴィニール賞のイタリア部門に、ぐんさんがジャケットを描いたThe Winstons(ウィストンズ)のファースト・アルバム「The Winstons」が選ばれたというのだ。

アルバムジャケット

The Winstons『The Winstons』

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