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[2020.03]【連載】タンゴのうた 詩から見るタンゴの世界 第26回 そこにいて(ケダテ)~バイオリンに捧ぐ(アル・ビオリン)

文●西村秀人 text by HIDETO NISHIMURA


 これまでタンゴの歴史を飾ったさまざまな名曲を紹介してきたが、今もタンゴの歌が日々作りだされていることを忘れてはいけない。マスメディアにおけるタンゴのプレゼンスが低くなったために、いわゆる広く親しまれるヒット曲は出にくい状況になったが、今日のブエノスアイレスを歌う曲は絶えず作り出されているのである。

 この曲を知る人はたぶん少ないだろう、この1か月ほどの間にやっと日本に到着したラミロ・ガジョ(バイオリン奏者)作曲、ペドロ・アスナール(歌手)作詞によって制作された最新アルバム「ユートピア(ウトピア)」の冒頭を飾る曲だからである。

     

 ラミロ・ガジョは1966年サンタフェ生まれの今年54歳。20年ほど前にオルケスタ・エル・アランケに参加しタンゴ界に登場、その後自己のキンテートやオルケスタ・アルケティピカなどを率いて国内外で公演、自身の作品をレパートリーの中心に据え、タンゴの現代を代表する演奏家・編曲家・作曲家の一人である。

 一方ペドロ・アスナールはアルゼンチン・ロック界の重鎮で、1959年ブエノスアイレス生まれ。ギター、サックス、ベース、パーカッション、ボーカル、作詞・作曲と何でもこなすマルチな才能の持ち主で、1978年から伝説のロックバンド「セル・ヒラン」のメンバーとして活躍、さらに1983年から85年、および1989年から92年までアメリカでパット・メセニー・グループのレギュラー・メンバーとして活動、広くその名を国際的に知られた。ソリストとしても大変な人気を持ち、近年は独特のクリアなボイスでフォルクローレの名曲などもとりあげ、長く親しんできたブラジルの名曲もレパートリーに入れ、アーティストとしての幅を広げてきた。そんな彼にとってタンゴは世代的にもジャンル的にも近くて遠いものだったのではないだろうか。しかし今回ラミロ・ガジョの曲、ペドロ・アスナールの詞という形で全13曲すべてが新作タンゴという大胆な企画が実現したのだ。(厳密にはアルバムの最後に収められた「セダ」だけはラミーロが30年ほど前に作った器楽作品で、長年忘れていたが、今回ふと思い出し、ペドロに聞かせると新たに詞をつけてくれたのだという。)

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