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[2017.11]【連載 ラ米乱反射 #139】「欺瞞の世」を睨みつける永遠の正義派 革命家チェ・ゲバラの死から半世紀

文●伊高浩昭(ジャーナリスト)

 亜国人革命家エルネスト・チェ・ゲバラ(1928~67)が処刑死を遂げてから本日、2017年10月9日で半世紀が過ぎた。ゲバラを革命家にしたキューバ、死地ボリビア、生国アルゼンチンなど世界各地で記念行事が催された。私は駆け出し記者時代初年1967年のこの日、メキシコ市にいて、エル・チェ(ゲバラを指す言葉。日本語では冠詞を外し「チェ」と省略)の死に直面した。それから50年、ラ米情勢に取り組むジャーナリストの私は、何かにつけてチェのことを書いてきた。

 その集大成として2015年7月、小型の伝記『チェ・ゲバラ 旅、キューバ革命、ボリビア』(中公新書)を刊行した。ゆっくりと、あるいはだらだらと丸5年をかけて資料を漁り、整理してまとめた本である。これが世に出れば、あとは、チェの歿後半世紀に因んで、いま書いているこのLATINA誌への記事を書くぐらいでいいと思っていた。

▼映画『エルネスト』

 ところが、チェと関係の深い鹿児島県系ボリビア人フレディ前村(1941~67)を主人公とする日玖合作映画『エルネスト』(阪本順治監督、オダギリジョー主演、キノフィルムズ)がチェの歿後半世紀に合わせて製作され、封切り前の7~9月の3ヶ月、この映画関連の仕事でにわかに忙しくなった。

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キューバ・サンタクラーラ市入り口にあるチェ・ゲバラ像。手前はキューバ国旗(2017年10月8日撮影)

 この映画は、ボリビアで2006年に刊行された『革命の侍 チェ・ゲバラの下で戦った日系二世フレディ前村の生涯』(マリー前村ウルタード、エクトル・ソラーレス前村共著)の日本語版(松枝愛訳、2009年、長崎出版)を阪本監督が読み、閃いたことから映画化されるに至った。私は『革命の侍』の原書を07年に沖縄県系のハイメ安次嶺駐日ボリビア大使(当時)から示され、ぜひとも邦訳出版したいと懇願された。そこで友人鈴木武道(現・出版社「ラピュータ」取締役編集長)が編集部にいた長崎出版に持ち込み、可能性を打診した。同社は快諾、鈴木を担当編集者として刊行が決まった。

 私は、原作内容の事実関係や章立てを監修してから、スペイン語を専攻したラ米学徒の松枝愛を翻訳者として推薦した。彼女にとり初めての書籍の翻訳作業だったが、素晴らしい速度で進行し、フレディ前村歿後42周年の日に日本語版が世に出たのである。この出版に先立ち、マリー前村とその息子エクトルの両著者が来日、長崎出版があった神田神保町界隈で過ごした時間は思い出に残る。マリーはフレディの姉、エクトルはフレディの甥である。

 このように『革命の侍』の訳書刊行に関与したことから松枝と私は、阪本監督および椎井友紀子プロデューサーから協力を依頼された。松枝は、翻案権をめぐる著者との交渉の仲立ちや契約書の翻訳などに携わり、かなり忙しい日々を送ることになった。私はときおり意見を言う程度だったが、足掛け4年に及ぶ監督、プロデューサーとの交流を通じ、映画人の信念と執念が理解でき、とても勉強になった。

 この映画は、日玖合作としては1960年代末の『キューバの恋人』(黒木和雄監督、津川雅彦主演)以来2作目だった。私は黒木監督と津川をメキシコ市で取材したのだが、ほぼ半世紀後に製作された『エルネスト』にも関わり、奇縁を感じざるを得なかった。

 2016年8月、阪本組は広島で映画の撮影を開始、私と松枝は東京でのある場面の撮影に立ち会った。来日したチェ・ゲバラ役のフアン=ミゲル・バレロ=アコスタらキューバ側キャスト、スタッフと歓談したり、監督補ロランド・アルミランテにインタビューしたりしたのは楽しかった。アルミランテにはハバナで10月再会して補足取材し、会見記を本誌(16年12月号「ラ米乱反射」)で紹介した。

 撮影は9~10月にはキューバで続けられ、年末に完成。17年2月初め、東京・五反田での内輪試写会で披露された。鈴木武道、松枝愛と並んで観賞したが、感慨深かった。その後のレセプションで監督とオダギリジョーに訊ねると、2人とも「映画人生で画期的な作品」と位置づけていた。

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