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[2021.10]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2021年10月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の()は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Ballaké Sissoko · Djourou

レーベル:Nø Førmat! (19)

 マリの作曲家/コラ奏者であり名手である、バラケ・シソコのソロアルバム。2021年4月にチャートイン以来、半年間TOP20内をキープし続けている。ランキングの入れ替わりが早い中でこれはすごいこと!また先月発表された、Transglobal World Music Chart「BEST OF 2020-2021 SEASON」のBEST ALBUMにも選ばれた作品。広く評価されていると言える。
 今回はソロ作品だが、何人かのアーティストをゲストに迎えコラボレーションしている。ゲストは、デュオアルバムもリリースしている盟友のヴァンサン・セガールを筆頭に、マリの巨匠サリフ・ケイタ、フランス人歌手のカミーユ、アフリカ系イギリス人でコラ奏者のソナ・ジョバルテ、フランス人MCのオキシモ・プッチーノなど。コラの音色とゲストによる音(声だったり楽器だったり)の融合が素晴らしく、心に沁み渡る優しい作品。もちろん、ソロでの曲も素晴らしいことは言うまでもない。
 アルバム名の「Djourou」は、マリで話されている言語であるバンバラ語で「糸」という意味。バラケ自身とゲストや、リスナーたちと音楽の糸で繋がっているということを表している。まさに、このアルバムに織り込まれている糸を、聴くことによって感じられる名盤である。

19位 Guy Buttery, Mohd. Amjad Khan & Mudassir Khan · One Morning in Gurgaon

レーベル:Riverboat / World Music Network (21)

 南アフリカのギタリスト、ガイ・バタリーと、インドの音楽家であるモハド・アムジャド・カーン(タブラ)、ムダッシル・カーン(サーランギー:インドの擦弦楽器で、インドの楽器の中では最も人間の声に近いと言われている)の三人の自然発生的なコラボレーションから生まれた作品。
 2019年末にガイ・バタリーがインドを訪問した際に、このトリオが生まれた。それまで面識はなく、この訪問で初めて音を合わせたそうだ。三人で演奏してみて、録音しようと思い立ち、それから録音場所を探した。限られた場所と時間の中、なんとか録音が行われた。このアルバムに収録されている曲は、すべて一発テイクで録られたそう。リズミカルでテクニック溢れるギター、サーランギーの叙情的な音、タブラの複雑なビート、どれもが素晴らしく調和がとれていて心地良く魅力的なサウンドになってる。

18位 Efrén López, Christos Barbas · Atlas

レーベル:Seyir Muzik (13)

 スペイン人ミュージシャンのエフレン・ロペスと、ギリシャ人のネイ/ピアノ奏者であるクリストス・バルバスのデュオ作。二人は約20年近く友人関係であり様々なプロジェクトで共演してきたが、二人の名義で出したのは本作が初めて。
 エフレンの弦楽器(ラバブ(アフガンの弦楽器)、ウード(アラブのリュート)、ラウタ(トルコのリュート))と、クリストスのネイ(1曲だけ二人ともラウタによる演奏)によるアコースティックな音楽で、哀愁を帯びたネイの音色とそれを包み込むような弦楽器の音色が見事に調和している。アルバム中1曲(「Ben voorga, sisser poges」)は、13世紀半ばにフランスの吟遊詩人が作曲した器楽曲で、それ以外は彼らのオリジナル作品である。
 即興性も感じられるが、緻密な計算により編み出された余韻も感じられるアルバム。また、二人だけの音であるにも関わらず、こんなにも壮大に風景や時間を感じさせるような音楽があるだろうか。静謐な音楽と言える美しい作品。
 先月の記事公開後に、今年5月に行われたフェスティバルでの2人のライブ映像(上記動画)が公開されていた。この2人を取り巻く空気感がとても素晴らしく、エフレンによるウードの奏法も大変面白い!

17位 Maher Cissoko · Cissoko Heritage

レーベル:Ajabu! (17)

 セネガル人コラ奏者のマヘル・シソコの最新作。スウェーデンの女性アーティストSousouとのデュオ Sousou & Maher Cissoko でも世界的にも活躍しているが、ソロ作品としては二作目となる。
 セネガルで700年以上にわたり受け継がれてきた偉大なグリオの一族に生まれた彼だが、そのグリオの伝統をアレンジし、独自の爆発的でダンサブルな演奏スタイルを開発してきた。コラを演奏するだけでなく、彼はパーカッショニストでもあり、彼のリズミカルな演奏方法からもそれが伺える。様々なバンドで演奏しており、レゲエ、ラテン、ファンク、ジャズなど他のジャンルのスタイルやテクニックにも影響を受けている。
 本作のほとんどは彼自身により制作、プロデュース、録音を行ったが、一部はマリの音楽家/プロデューサーで世界的に活躍しているアハメド・フォファナともコラボレーションしている。
 前作はコラの魅力を全面的に表現したアコースティックなアルバムだったが、本作はグリオの伝統をアフロビートやアフロポップ、レゲエなどと組み合わせ、エレクトロニクスやビートと見事に融合しつつ、コラの音色も充分に活きている。その融合っぷりが実に見事で、彼独自の新しい音楽を創り出した。コラの可能性が大きく広がったとも言える作品だろう。これからの活躍が期待されるアーティストである。

16位 Altın Gün · Âlem

レーベル:Glitterbeat (12)

 オランダとトルコの混成グループで、サイケ・フォーク・バンドのアルトゥン・ギュンの最新作!2月にも新作をリリースしており今年になって2作目となる。本作は、Bandcampのみで販売され、収益はすべて、自然保護団体のネットワークと協力して地球規模で土地を保護する活動を行っている非営利団体「Earth Today」に寄付されるとのこと。国境を越えたバンドであるため、パンデミック中はツアーができなかった。そこで余った時間を持続可能な生活に貢献すべく、このような支援活動を行うことにしたそうだ。そしてまだ足りないとも語っている。音楽活動を行いながら環境活動の支援をも行うとは頭が下がる。
 トルコの人気女性歌手 Nese Karabocek が歌った有名で伝統的な曲「Yali Yali」から始まり、本作も伝統的なトルコの民族音楽とサイケデリックなエレクトロニック・サウンドの融合を貫いている。80〜90年代を感じるポップな空気感なのだが、何故だか今聞いても新鮮さ、斬新さを感じられる不思議な作品。前作以上にその空気感は半端なく、とても幻想的で魅力的な作品となっている。このアルバムをBandcampで購入すれば環境活動へも参加できる、一石二鳥の作品。
 彼らのライヴ映像もありましたので、今回追記しました。評判高いパフォーマンスも是非お楽しみください!

15位 Boubacar “Badian” Diabaté · Mande Guitar: African Guitar Series, Volume I

レーベル:Lion Songs (7)

 アメリカ人のベテランギタリストであり、ジャーナリストであるバニング・エアが設立した新しいレコードレーベルからの最初のリリース作品。アフリカの偉大なギタリストたちの新しい録音シリーズの一環として制作されたアルバム。ギタリストは、マリのギタリストであるブバカル・"バディアン"・ジャバテ。バニングがマリでギターを学んでいた頃に出会い、バディアンの超絶なテクニックと叙情的なタッチはバニングにとって衝撃的だったとのこと。
 その数年後にバディアンは西アフリカのコミュニティで演奏するためにニューヨークを訪れるようになり、バニングにCD制作の協力を何度も頼んだそう。バニングは、バディアンがギターを弾くだけで、ボーカルやパーカッションなどの楽器を使わないという条件で承諾した。出来上がった作品には、ギターのデュオがあったり、1曲だけパーカッションが入っている曲も収録されている。
 インストのみで聞き惚れてしまい、収録時間である1時間はあっという間に過ぎる。ぜひ多くの人に聞いてほしい作品。
 バニング・エアによる新しいレーベルから、まだまだ続き新たなアーティストが紹介されていくことを期待したい。

14位 Toumani Diabaté and The London Symphony Orchestra

レーベル:Kôrôlén · World Circuit (10)

 グラミー賞を受賞したマリのコラの名手トゥマニ・ジャバテと、レコードや映画、舞台でのオーケストラ演奏で世界的に活躍するロンドン交響楽団のコラボレーション作品。ロンドンのバービカン・センターの特別プロジェクトとして依頼され、ワールド・サーキットによって制作されたアルバム。
 何世代にもわたって音楽を受け継いできたグリオであるジャバテは、フラメンコ、ブルース、ジャズなどの異文化と交流し、マリの伝統音楽を現代に、そして世界へと発信し続けてきた。今回はクラシックとのコラボ。マリの著名な音楽家たちがいるジャバテのグループが参加し、ニコ・ミューリーとイアン・ガーディナーの編曲とクラーク・ランデルの指揮によるものとなっている。
 タイトルの「Kôrôlén」は、マンディンカ語で「先祖代々」を意味する。伝統的なメロディーとコラの音色の美しさが、西洋のオーケストラ・アレンジと見事に融合されている。まさにアフロ・ネオ・クラシック・サウンドと言える作品だ。

13位 V.A. · Cameroon Garage Funk

レーベル:Analog Africa (20)

 ドイツの復刻専門レーベル“Analog Africa”のコンピレーション・シリーズの最新作。本作は、1970年代にカメルーンの首都ヤウンデで録音されていた強烈なサイケロック、サイケファンクをまとめたもの。
 1970年代のヤウンデは活気に満ちていて、どの場所にも音楽があふれていたが、カメルーンには適切な録音設備がなく、多くのアーティストたちは自分の曲をテープに録音すること自体が冒険のようなものだった。もちろん、国営放送局とサウンドエンジニアを契約すればいいのだが、お金のないアンダーグラウンドなアーティストには、とても無理な話である。このアルバムに収録されているアーティストの多くは、教会のエンジニアであるムッシュ・アウォノのおかげで、録音設備のあるこの教会で秘密裏に録音することができたのだ。録音したものは、フランスのレーベルであるSonafricが製造と販売の仕組みを提供し、多くのカメルーン人アーティストがそのプラットフォームを利用してキャリアをスタートさせることができた。
 そして今回、“Analog Africa”はこのリイシューにあたり、1970年代のヤウンデの音楽シーンを解明するため、現地に何度も足を運び、多くのインタビューを重ねたそうだ。無名のアーティストもいただけにその苦労は計り知れない。
 ヤウンデやその周辺の伝統音楽をベースに、ファンクやアフロ、ロックなどと融合し、当時の強烈な曲が集められたアルバム。これが50年前に録音されていたのはとても驚きだ。生のグルーヴと壮大な曲の並外れた遺産、貴重な音源と言えるだろう。

↓国内盤あり〼。(音楽の背景やアーティストの紹介、最新のインタヴューや貴重な写真などを織り交ぜた詳細なブックレット、さらに日本語解説を付けてその内容をより分かり易く紹介しており、ぜひフィジカルで持っていたいアルバムとなっている)

12位 Namgar · Nayan Navaa

レーベル:ARC Music (1)

 ロシアのシベリア南部、モンゴルや中華人民共和国との国境近くにある小国ブリヤート共和国出身のシンガー、「モンゴルのビョーク」と呼ばれるナムガル。彼女名義のバンドによるアルバムである。
 バンドは、モンゴルやロシアの伝統的な楽器(ヤトガ(13弦の撥弦楽器)、チャンザ(3弦のリュート)、モリンホール(馬頭琴:2弦の弓楽器)など)と、エレクトリック・ベース、ドラムを使って独自のサウンドを生み出し、2005年に結成以来、ノルウェー、マレーシア、アメリカなど世界各地のフェスティバルのステージに立っている。2014年にも来日している。
 今回の作品は、サンクトペテルブルク、モスクワ、ブリヤートの古文書館で、忘れ去られたブリヤートの伝統的な歌(民謡)を100曲集め、その中から選んだ曲を収録している。伝統的な歌を伝統楽器で演奏する、というと伝統音楽っぽく仕上がると予想できるが、彼らの音楽はそういうことはない。ロック調のものあり、現代的なアレンジとなっている。そこに伝統的な発声や楽器などのスパイスが効いてる感じだ。
 この地方の伝統的な歌には、多彩で多様性に富み、自然が大きく関わっていることが彼女の声から想像できる。今後も大事に聞いていきたい作品。彼女の声の虜になることは間違いない。
(このアルバムを制作するにあたってのインタビュー動画が公開されていたので上記に追加しました。彼女が育った環境も見られる貴重な映像です。)

11位 Eva Quartet · Minka

レーベル:Riverboat / World Music Network (5)

 世界的に有名でグラミー賞を受賞歴もある、ブルガリアの女声合唱団「Le Mystere des Voix Bulgares」のメンバー4人により1995年に結成されたユニット、Eva Quartetの最新作。
 2012年に発表された前作『The Arch with Hector Zazou』では、坂本龍一やビル・フリゼールなど豪華音楽家がゲスト参加し、アンビエント/アヴァンギャルド・ジャズといった先進性の高い音楽と融合し好評を博したが、本作は彼女たちの原点に立ち返り、ア・カペラ・スタイルを中心とした作品となっている。
 アルバムに収録されている曲は、結婚や母の愛についての心のこもった物語など、音楽がブルガリアの村の生活に根付いていた昔の時代を思い起こさせる伝統的なブルガリア民謡。25年以上にわたってブルガリア民謡の第一線で活躍し続けて来た彼女たちが、真摯に伝統に向き合い、多様な方法で伝統的な歌を読み解きながら、歌の純粋さ、美しさを追求した結果がこの作品に美しいポリフォニー・コーラスによって描かれている。
(上記動画は本作には収録されている曲ではありませんが、彼女たちが歌っている姿がよくわかる動画だったので掲載しました。息の合った感じ、美しい声をご堪能ください)

↓国内盤あり〼。

10位 Ballaké Sissoko · A Touma

レーベル:Nø Førmat (-)

 今月、20位にもランクインしているバラケ・シソコの最新アルバム。チャートにダブルでランクインとはすごい。
 前作『Djourou』のプロモーションの合間を縫って、ベルギーの教会で1日かけて録音した8曲が収録されている。アルバムのオープニングを飾る曲は、世界中の優れたアーティストをベルリンから世界に発信する音楽プラットホーム「COLORS」のショーで演奏された。彼がその場で演奏を行うことで、マリの伝統と文化遺産を継承し、マンデの古典的なレパートリーを再構築できることを新しい世代に伝えたかった、と彼は語っている。
 前作はゲストを迎えた豪華な作品だったが、本作は彼のコラのソロのみで、とてもシンプルな作品となっている。だからこそ、彼の長いキャリアの中で、コラと対話してきた熟練した成果がこのアルバムに収められていると言えよう。アルバムタイトルの『A Touma』は「この瞬間」という意味。精力的に演奏活動を行なっているが、このアルバムを出すのは今だったのだろう。シンプルで心地良い音色を堪能できるアルバム。

9位 Petrona Martínez · Ancestras

レーベル:Chaco World Music (-)

 コロンビアのブジェレンゲの女王、ペトローナ・マルティネスの最新作。健康上の理由からステージから離れていたが、今年夏にNYで開催されたアフロラティーノ・フェスティバルにリモートで参加、見事に復活を果たした。
 本作は、彼女の先祖の “抵抗” を表現した作品となっており、ブジェレンゲだけでなく、チャルパ、ファンダンゴ、ソン・パレンケといった彼女のキャリアを特徴づけるリズムに、ゲストの女性アーティストたちの声やリズムと融合している。ベナン出身のアンジェリーク・キジョー、コロンビアの歌姫ニディア・ゴンゴラ、キューバのアイメー・ヌビオラ、マリアッチバンドのフロール・デ・トロアチェ、ブラジルのシェニア・フランサなどの豪華なメンバー。アフロビート、ジャズ、マリアッチ、ルンバ、キューバのティンバなどのリズムと見事に融合した作品となっている。
 アルバムでは、彼女のキャリアの中で初めて作曲した曲の思い出についての証言で始まり、コロンビア・カリブのアフロ・コミュニティのシンボルであるブジェレンゲの未来についての考察の証言で締めくくられている。コミュニティの中で代々口承で受け継がれた伝統が忘れ去られてしまうことへの抵抗を示した作品となっており、大変貴重な作品。

8位 Rachel Magoola · Resilience: Songs of Uganda

レーベル:ARC Music (9)

 ウガンダでは著名なシンガーソングライターであるレイチェル・マグーラの最新作。ソロ作品としては7作目となる。
 彼女はウガンダで伝説的なバンド「Afrigo Band」のメンバーで活動しソロとしても活動。音楽活動だけではなく慈善活動も行い、ウガンダの文化の中で長きに渡り人道的な活動をしてきた。その結果として、今年のウガンダ総選挙で国会議員に選出された。政治に携わりながらもこのアルバムをリリースするとはすごいエネルギー!いや政治に携わったからこそ、このコロナ禍において、音楽を通して伝えたいメッセージがあったのかもしれない。
 アルバムは、ウガンダの文化と歴史にインスパイアされた楽曲で構成されており、レイチェルのオリジナル曲やコラボレーション曲に、ウガンダの伝統的な歌の解釈を織り交ぜている。ウガンダの伝統楽器の音も入り、全体的にハイテンポで陽気なサウンドで、思わず踊りだしたくなるような曲ばかり。この陽気な曲調と生き生きしたヴォーカルの裏には、平等、エンパワーメント、若者の教育に対する彼女の情熱が表現されている。ウガンダの人々に対し、彼らの強さと、彼らや祖国が直面するあらゆる苦難にもかかわらず、誇りを持ち続けて行こうと伝えている。タイトルを直訳すると「回復力:ウガンダの歌」まさにパンデミックの危機を歌を通して乗り越えようという彼女の強いメッセージが窺える。エネルギーを感じる素晴らしい作品。

7位 Angelique Kidjo · Mother Nature

レーベル:Decca (4)

 今年の東京オリンピック開会式にも登場した、ベナン出身でアフリカを代表するシンガー、アンジェリーク・キジョーの最新作。前作『Celia』はセリア・クルースへのオマージュアルバムで、グラミー賞を受賞するなど大好評を得たが、今回は7年ぶりのオリジナルアルバムとなっている。
 2019年からこのアルバムに収録する曲を書き始め、パンデミックで隔離されたこの1年間で制作されたもの。アフロビートやアフロ・ポップ、EDM、ヒップホップやR&Bといった様々なジャンルが融合し、アフリカを全面に表現、多数のアーティスト達がゲストとして参加している。彼女と同じベナン出身のLionel Louekeや、Salif Keitaなどベテラン勢をはじめ、ナイジェリアの Yemi Alade、Mr Eazi や Burna Boy、ベナンの Zeynab などなど… 総勢12組!現代アフリカを代表する若手アーティストや、アメリカ、フランスなどで人気あるアーティストたちともコラボしている。キャリアがあってもなお若いアーティスト達と新しいものを創りあげていく姿勢がとても素敵。
 アフリカへの愛が満載のアルバム。アフリカの伝統を受け継いでいることへの純粋な喜びがこちらに伝わってくるようだ。

6位 V.A. · Changüí: The Sound of Guantánamo

レーベル:Petaluma (3)

 イタリア出身でニューヨーク在住の音楽ジャーナリスト Gianluca Tramontanaが、キューバの最東端グアンタナモ州で録音した伝統音楽チャングイ(Changüí)が、51曲収録されているアルバム。チャングイはグアンタナモ地方で150年以上の歴史を持つ伝統音楽で、サトウキビの精製所や、奴隷が住む農村で生まれ、ソンの前身とも言える音楽。グアンタナモ州のバラコアの町からグアンタナモ市、そして山村まで行き、現地の(プロとは言えない無名の)ミュージシャンたちの自宅や裏庭、ポーチなどでフィールド録音を行った非常に貴重な音源である。
 独特のリズムパターンがあったり、クラーベを使っている曲があまりないことなど、キューバのような大きくない島であるにも関わらず、地域差があることがよくわかる。小さなコミュニティで日常的に音楽と関わっている姿が想像できる素晴らしいアルバム。

5位 Omar Sosa & Seckou Keita · Suba

レーベル:Bendigedig (-)

(10/27更新:10/22リリースでしたので、Spotify音源を更新致しました)

 キューバ出身のピアニストオマール・ソーサと、セネガルのコラ奏者、セク・ケイタの最新作。2017年にリリースされた前作『Transparent Water』は世界で高い評価を得たが、これが彼らのセカンドアルバムとなる。
 パンデミック期間中に録音され、オマールと’90年代から行動を共にするベネズエラ出身のパーカッショニスト、グスターボ・オバージェスも参加している。
 「このアルバムのコンセプトは、平和、希望、団結です。私たちが生きているこの瞬間、すべてが少しずつ崩壊していく中で、私たちが最後に自分の中に持っているものは、自分の内なる声、自分の精神や光、そして祖先との神聖なつながりです。私たちは、音楽を通して希望を与え、一緒にいられることを伝えようとしています。」とオマールは語っている。パンデミック後の世界において、思いやりと真の変化の新たな夜明けへの希望の讃歌であり、平和と団結を求める人類の永遠の祈りを直感的に繰り返した作品となっている。
 アルバムタイトルの「SUBA」とは、セク・ケイタの母国語であるマンディンカ語で「日の出」を意味する。困難に直面していても新しい一日が始まる日の出を見て、正常な状態にリセットしようという意味がこめられている。希望が持てそうなアルバムである。早くすべての曲が聞きたい。

↓国内盤あり〼。(ハードカバー書籍風豪華44Pフルカラーブックレット付・ライナー日本語訳封入)

4位 Canzoniere Grecanico Salentino (CGS) · Meridiana

レーベル:Ponderosa Music (2)

 Canzoniere Grecanico Salentino(CGS)は、1975年にイタリアの作家リナ・ドゥランテによって結成された、イタリア南東部サレント地方の伝統音楽アンサンブルグループ。その最新作。
 7人編成によるこのグループは、南イタリアの伝統的な音楽と踊りを現代風にアレンジしてパフォーマンスを行う。これまでに18枚のアルバムを発表し、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、中東などで多くの公演い、高く評価されてきた。2007年には、バンドリーダーだったダニエレ・デュランテから息子のマウロ・デュランテに引き継がれた。
 アルバムタイトル「Meridiana」は「日時計」という意味。アルバムのデザインも日時計を表現、日時計の時間が12であるように曲数も12曲ということで表現している。今回のアルバムでは、サレント地方の伝統的な曲と、ピッツィカ(イタリア・サレント地方に伝わる伝統的な踊りで男性と女性によるペアの踊り)を使った現代的なオーケストレーション作品を収録している。過去と現在が重なり合い、時間が拡大したり縮小したりしながら、12曲が流れていくイメージのアルバムだ。
 アルバムのホームページを見ると、このアルバム自体が、時間をテーマにした幅広いプロジェクトとなっている。科学と文化の世界の著名人から提供されたビデオ、画像、テキスト、寄稿文が集まり、マルチメディアと学際的なオリジナルのモザイクを構成している。稀に見る困難な年だからこそ生まれたプロジェクトではないだろうか。全体を通して聴いてみると、物語の全体が見えてくるかのようだ。必聴です。

3位 Shujaat Husain Khan, Katayoun Goudarzi, Shaho Andalibi & Shariq Mustafa · This Pale

レーベル:Lycopod (-)

 インドの古典的伝説である作曲家・シタール奏者シュジャート・フサイン・カーンと、イラン系アメリカ人のシンガー、カタユン・グーダルジ、イランのネイ奏者シャホ・アンダリビ、インドのタブラ奏者シャリク・ムスタファの4人によるコラボ作品。
 シュジャートとカタユンは、2008年頃より何度かコラボレーションしこれまでに6枚の作品をリリースしているので、相性はピッタリ。シュジャートのシタールの演奏スタイルは人間の声を模倣したもので「gayaki ang」と呼ばれている。そのシタールの音色と、ペルシャの詩に深く影響されたというカタユンの素晴らしい声が美しく融合されている。また、ネイの音色も低音で囁いているかのように聞こえ、そこにタブラのビートが重なり、素晴らしい音のコラボレーションとなっている。
 この作品では、13世紀のペルシャ語文学史上最大の神秘主義詩人であったルーミーの詩、特に愛についての詩に、今回新たな命を吹き込み、古い物語を多文化で新鮮に表現している。インドとペルシャの文化の融合が素晴らしく、とても美しい作品。

2位 Fanfare Ciocărlia · It Wasn’t Hard to Love You

レーベル:Asphalt Tango (-)

 1997年、ルーマニア北西部の村で12人のミュージシャンにより結成されたジプシー・ブラス・バンド、ファンファーレ・チォカリーアの最新作。現在のジプシー音楽を代表し、世界で絶大な人気があるバンドだ。パンデミックの影響でライヴ収入が無くなり、計画していた25周年記念アルバムを制作できなくなり、昨年クラウド・ファンディングで世界中から資金を募っていたが、そのアルバムがとうとう完成!世界中のファンが待ち望んでいた作品だ。日本にも、2000年に初来日し、以降6回来日、2014年には「Fuji Rock」にも出演した。
 バルカン半島の金管楽器にジャズやポップス、ロックの要素を加え、世界最速と言われる猛烈なテンポで正確に演奏するファンファーレ・チョーカリーアは比類なき才能を表し、世界各地でカルト的な人気を得てきた。今回の最新作も、これまで以上にエネルギッシュでパワー全開、活気溢れた作品となっている。
 数年後には引退する予定とのことだが、最後に是非日本ツアーを行なって欲しい。生音を体験してみたいものだ。

1位 Monsieur Doumani · Pissourin

レーベル:Glitterbeat (-)

 東地中海に浮かぶ小さな島国キプロス共和国の人気トリオ、ムシュー・ドゥマニの4枚目となる最新作。
 2011年に活動を開始して以来、彼らはキプロスの伝統音楽や民謡を現代的にアレンジし蘇らせるサウンドを追求してきた。世界中のフェスティバルなどに出演し、多くの聴衆から高い評価を得て世界中で紹介されてきた。2018年にリリースされた前作となる3rdアルバム『Angathin』では、Transglobal World Music Chartの「2018年のベスト・アルバム」として表彰された。
 満を辞してのこの最新作はドイツのレーベル「Glitterbeat Records」と契約し、彼らのサウンドとスタイルの面で新たな時代の幕開けとなった。前作リリース後、創立メンバーであったアンジェロス・イオナスが脱退し、サポートで参加していたアンディス・スコルディスが正式メンバーとなった。
 タイトルの「Pissourin」はキプロスの方言で真っ暗闇のことを意味する。本作では、夜闇の中にうごめく生物たちをモチーフとしたダークで幻想的な歌詞、彼らのトレードマークである地中海的なサウンドを、シュールでサイケデリック、アヴァンフォークの方向へと押し進めている。弦楽器、重層的な歌声、トロンボーンによるローエンドが織りなすダンサブルな感じで、全く新しいサウンドを展開している。

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(ラティーナ2021年10月)

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