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[2017.06]【連載 ラ米乱反射 #134】「クーデターの危機」に対抗するベネズエラ 反政府勢力は米指示通り街頭暴力激化作戦

文●伊高浩昭(ジャーナリスト)

 ベネズエラで2017年4月2日、カラカス首都園を中心に反政府勢力の抗議行動が始まった。6日には抗議行動のさなかに19歳の若者が死亡した。その後5月半ばまでに40人に達することになる死者の最初の一人であり、抗議行動が暴動に転化した日に出た最初の犠牲者だった。4月6日を境に反政府勢力は、ニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権打倒に新たな舵を切った。背後にいるのはトランプ米政権である。ゴルペ(クーデター)による政権崩壊か、それを防いでチャベス派体制が持ち堪えられるか。ベネズエラ情勢は後戻りできそうもない危険な局面にのめり込んでいる。

▼国会締め付けの誤算

 保守・右翼約20党で構成する野党連合MUD(民主連合会議)は、街頭での抗議行動の際、平和行進する一般党員の前衛役を担う覆面別働隊の若者集団を治安部隊に対峙させ、投石、バリケード設置、「タイヤ炎上」などで当局を挑発する戦術をとっている。当局によると、MUDは極右武装犯罪組織を使って殺傷、破壊活動、略奪、放火などを恣にしてきた。抗議行進と破壊活動はカラカスから、カラボボ、スリア、タチラ、ララ、アンソアテギなど全国諸州に拡がり、5月10日までに死者40人、700人を超える負傷者と、裁判所、官庁、地下鉄、バスなど公共施設の破壊・放火、商店略奪などによる巨額の損害が出ている。4月の被害総額は5億ドルと見積もられている。

 今回のMUDによる「街頭決戦」のきっかけとなったのは、最高裁が3月末、国会の憲法判断審議機能を否定し、最高裁・憲法法廷を唯一の憲法判断機関と判断したこと。背後でマドゥーロ政権の意向が動いたのは間違いない。政権は、MUD所属の国会議員がベネズエラへの内政干渉を繰り返す米州諸国機構(OEA/OAS、34カ国加盟)や米政府と臆面も無く通じるのを「反逆罪」的な行為と捉えている。最高裁は一時的措置として3月28日、、国会議員不逮捕特権を無効にする権限を大統領に与え、29日には、国会の承認無しに国営石油会社PDVSAが外資との企業設置など合弁事業契約を結ぶ権限を憲法法廷に認めた。背景には、PDVSAと露石油会社の合弁事業で、政府がPDVSAの持ち株を憲法の定める過半数(51%以上)とせず、露側出資率を過半数とする契約を結ぶのを国会が違憲として応じないという出来事があった。

 MUDは、ペルーのアルベルト・フジモリ大統領が1992年4月、軍部と組んで国会を閉鎖した重大事件になぞらえて「アウトゴルペ」(自作自演のクーデター、お手盛りクーデター)と糾弾、この非難が国際社会に一気に拡がった。するとベネズエラ政府の一翼を担うルイサ・オルテガ検事総長が、不逮捕特権剥奪と石油合弁出資比率変更は憲政崩壊を招くと意義を申し立てた。これを受けて最高裁は3月31日、判断を取り消した。最高裁と検察庁との対立が本物なのか出来レースだったのか定かではないが、最高裁が政権の影響下にあることから政権内の〈マッチポンプ〉に終わった。このマドゥーロ政権の大失態を、MUDと、陰で糸を引く米政府は見逃さなかった。穏健派と極右過激派に内部分裂していたMUDは政権攻撃の好機到来で息を吹き返した。

 米国のクーデター戦略は「ジョンソン教義」に沿っている。1965年当時の米大統領リンドン・ジョンソンは、ラ米にキューバ以外の社会主義国が存在するのを許さないとする政策を決め、同年4月、ドミニカ共和国(RD)に大規模な軍事侵攻をかけ、フアン・ボッシュ大統領の革新政権復活を阻止した。次の大統領リチャード・ニクソンは73年9月、同教義に基づき、チリ軍部と組んでアジェンデ社会主義政権を葬った。大統領ロナルド・レーガンは81年以降、ニカラグアに内戦を仕掛け、社会主義志向のサンディニスタ政権を疲弊させ、大統領選挙での敗北に導いた。

 大統領ジョージ・ブッシュ(息子)は2002年4月、国務長官コリン・パウエルが描いた青写真に基づいて、当時のベネズエラ大統領ウーゴ・チャベスを倒そうとクーデターを決行。チャベスを幽閉したが、政権奪取には失敗した。奇蹟的に政権に復帰したチャベスは米政府を敵視し続けたが、腰部癌で13年3月死去。オバーマ政権は後継のマドゥーロ現政権を与しやすいと見て、さまざまな揺さぶり工作を仕掛けた。

 オバーマ政権下の2014年2月、MUDは米政府と連繋してゴルペ誘発のため「グアリンバ」(街頭暴動事件)を3ヶ月に亘って展開、死者43人(うち36人は暴徒が殺害)を出した。だが政権打倒には失敗した。オバーマは同年12月の対玖国交正常化決定と釣り合いをとるかのごとく、ベネズエラ政権打倒政策に傾斜、翌15年3月9日、「ベネズエラは米国の安全保障と外交にとり並外れた脅威であり、非常事態を発動する」という信じ難い政令を出した。1823年の「モンロー教義宣言」以来、「ラ米の脅威は米帝国主義」というのが通り相場であり、国際社会は政令に呆れ返った。だが米国は本気だった。マドゥーロ政権を倒し、世界有数のベネズエラの原油資源を再び支配下に置こうと決意したのだ。対玖正常化はノーベル平和賞受賞者としてふさわしい勇断だったが、ベネズエラ政権打倒工作は平和賞を自ら愚弄する帝国主義者の発想そのものだった。

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2017年5月1日「国際労働者の日」にカラカスで、制憲議会開設方針を発表するニコラース・マドゥーロ大統領

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