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[2017.04]連載 小松亮太のタンゴ場外乱闘 #10 バンドネオンは罪作り

文●小松亮太 text by RYOTA KOMATSU

 小松亮太さんの著書『タンゴの真実』が発売されたことを記念して、過去の月刊ラティーナに連載した記事を掲載致します。


 だからといってタンゴは安泰だと言う気は微塵もないけれど、とにかく日本ほどドラマや映画のサウンドトラックで、あるいはゲーム音楽で、バンドネオンの音色が頻繁に聞かれている国もないだろう。その演奏のほとんどが多少なりとも僕が昔に教えたことがある人たちによるものであることを誇りに思う。このマイナー楽器がやっと普遍的な土俵で活躍できるに至った道程には勿論アストル・ピアソラが大きく寄与しているが、「なるほどバンドネオンにはアコーディオンとは違う独自の凄さがあるのだな」という認識が、特に他ジャンルの作曲家たちに浸透したのは若い奏者たちの努力と才能の賜物だ。

 ツイッター等を見ていると、バンドネオン=ボタン式アコーディオンと早合点する人が急増しているが、まあ名称を憶えてもらえただけでも20年前とは隔世の感があるというべきか。それはともかく「バンドネオンをやってみたくて値段を調べたけど死ぬほど高くてマジ最悪」という主旨のツイートがあまりに多いことに驚く。確かにエレキギターのように数万円の廉価品は無いだろうが、ある程度の品質の弦楽器や管楽器に数十万円の値がついていることなど珍しくもないではないか。要するにアカデミックな敷居の高さのないエスニックな、ムードありきの民族楽器、という先入観がそうさせるのだろう。

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