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[2017.12]【短期連載】 The Latin Music is a Tramp! #5 アルトゥーロ・サンドバル

文●山本幸洋

 アルトゥーロ・サンドバル。イラケーレの主要メンバーとして70年代後半の世界のジャズ・フィールドで優れたトランペッターとして知られ、イラケーレから独立した80年代にガレスピー率いる国連オーケストラでも活躍、90年に亡命してUSに移住(98年帰化)してからはキューバンとストレイト・アヘッド両方のジャズ・フィールドのみならず、クラシックやピアノ演奏、ソウルやポップス、はたまたタンゴに至るヒット曲をトランペットで演奏するなど自由かつマルチに活動している。

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撮影/ 佐藤 拓央  写真提供/BLUE NOTE TOKYO

 今回、9月4~6日にブルーノート東京に出演したアルトゥーロのバンドは、ピアノ、ベース、ドラムズ、パーカッション、キーボードという編成で、ライヴ盤『Live At The Blue Note』(リスト#31)や『Live At Yoshi's』(#40)と同様、キューバン・ジャズあり、ストレイト・アヘッドあり、バラードあり、ピアノ演奏もスキャットも歌も交えてマルチ・タレントぶり、エンタテイナーぶりを披露。彼のアルバムをフォローしていればライヴの構成に目新しいことはないのだが、とにかくトランペットの美しさが際立っていた。そうであることは解っているつもりだった。でも、ヴォーカル・ナンバーとして知られる「Taking a Chance on Love恋のチャンス」での絶品ミュート、クリフォード・ブラウンの定番「Joy Springジョイ・スプリング」や十八番「A Night in Tunisiaチュニジアの夜」など、小粋なプレイも、ホットなプレイも全てが完璧に調和していた。唸るしかない。

「80年にイラケーレ(#B)を辞めて、キューバではやることがなくなったから90年にUSにいった」

 控室に到着してものすごいスピードで食事して、運指やマウスピースでウォームアップをしながらの受け答え。アルトゥーロのクロックはどんなに速いのか? と苦笑いしつつ、USに向かった理由に合点がいった。別掲のディスコグラフィ(ほぼ網羅できていると思う)を順を追ってみればキューバ時代でアルトゥーロの音楽性はほぼ出来上がっていて、その拡大版がUS時代であり、成すためのスピード感や多様性がUSにあったということなのだろう。

「音楽には良い音楽とそうでないのしかない。良いと思ったら、知りたくなるし、耳を傾けたくなるし、感謝したくなる」

「好きな音楽? ひとつに決められないな。例えば、俺はピアノ・コンチェルトが大好きで、セルゲイ・マフマニノフの音楽を愛している。ショパンも、マイケル・ジャクソン、アース・ウィンド・アンド・ファイアもね。全てが好きだ」

 そうそう、キューバにいた頃から、ジャズやポップスや世界的ヒット曲が大好きなはずだ。ディオンヌ・ワーウィック「I'll Never Love This Way Again涙の別れ道」(#4)、ポール・モーリアが「エーゲ海の真珠」と改題しヒットさせた「ペネローペ」(#3)などたくさんある。これらは、ビ・バップ〜ハード・バップのようにアドリブを駆使してジャズにするというアプローチではなく、トランペットでメロディを愛でる歌のない歌謡曲アレンジだ。

「トランペットの音が好きだった。人々が聴きたい音楽をトランペットで話すように演奏するんだ。俺の音楽を信頼してくれれば、そのヒトのソウルに響く音楽を演奏しようと思う」

「ジャズならジャズ、ファンクならファンク、バラードにキューバン、俺たちはいろんなものを持っていて、それをよりよく演奏するということだ」

「(キューバ時代について)もう終わったことだし、俺にとってはこれからが重要なんだよ、わかるだろ?」

 なんて言われたけど、ソンにファンクやジャズ、ヨルーバのエッセンスをぶち込んだイラケーレの主要メンバーだったアルトゥーロに、ジャズとの出会いはどうしても聞いておきたい。ここは食い下がって聞いてみた。ちなみに、同じくイラケーレの主要メンバーだったパキート・デリベーラsaxの場合はパキート父が聴いていたベニー・グッドマン『ライヴ・アット・カーネギー・ホール』である。

「オルケスタ・クバーナ・ムシカ・モデルナ(OCMM、#A)に入る一年前に、キューバの新聞のジャーナリストが俺に聞いてきたんだ、ジャズを知ってるか?ってね。いいや、と答えたら、そこで彼は俺にディジー・ガレスピーとチャーリー・パーカーのレコードを聞かせてくれた。それが初めてのジャズ。それは強烈な印象だった。いまだに、その体験をもとに音楽を続けているようなもんだ。キューバのラジオではジャズはかからなかったし」

 アルトゥーロは、1949年ハバナ近郊のアルテミサ生まれ。観光客でハバナが賑わっていた50年代はまだ子供であるし、59年のキューバ革命後しばらくはジャズやUSのポップスが遠ざけられていたから、その影響なのだろう。

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