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[2017.03]特集:インディー・クラシック とその周辺の注目のシーン


文●八木皓平 text by KOHEI YAGI

 いまのチェンバー・ミュージックの面白さを『ラティ―ナ』で紹介しないかという話がメール・ボックスに舞い込んできたときはいささか驚いた。ぼくはたしかに普段から、チェンバー・ミュージックについて、ある意味では専門的に書いてはいるものの、それはポストクラシカルやインディー・クラシックといったジャンルが主で、『ラティーナ』とは距離のある音楽だったからだ。だが同時に、それはそれで面白いかもしれないとも思った。ポストクラシカルやインディー・クラシック等と、南米のチェンバー・ミュージック等を同時に並べることで、それらを別々の場所で語った場所では浮かび上がってこない互いの特徴などが見えてくるのではないかと感じたのだ。そしてその感覚は、依頼を引き受け、特集内の各セクションの担当者から素晴らしい原稿が届いた今、当たっていたと確信している。この風変わりな特集だからこそ生まれえた、各ジャンルの異質性のようなものがここにはある。

 この特集の基本的なコンセプトは、クラシック~現代音楽と同時代の音楽が出会ったときに産まれ落ちた奇妙な輝きを持つ音源を五枚、その背景と共に、さまざま切り口で紹介するというものになっている。セクションは「ポストクラシカル」「インディー・クラシック」「ヨーロッパ・チェンバー」「南米のラージ・アンサンブル」「南米のチェンバー・ミュージック」の五つから構成されている。これらのセクションについて簡単に説明してゆこう。

 クラシック~現代音楽が同時代の音楽と混ざり合った代表的なジャンルとして、「ポストクラシカル」が挙げられる。このジャンルの誕生当初は、モーリス・ラベル、クロード・ドビュッシー等の印象派と呼ばれる音楽と近しいものでありながら、ジャンルの成熟につれ自然とエレクトロニカやアンビエント・ミュージックと合流していき、それらのサウンドとの融合に成功した。

 「ポストクラシカル」がどちらかといえば印象派~エレクトロニカにおけるアンビエントなテイストを多分に含んだものである一方、「インディー・クラシック」はクラシック~現代音楽のアグレッシブな側面を抽出し、そこに他ジャンルを取り入れた。特に、現代音楽における十二音技法やトーン・クラスター等の無調音楽、そしてミニマル・ミュージックを取り入れる等、テクスチャーと構造の両面で冒険を続けている。

 「ポストクラシカル」と「インディー・クラシック」にばかり焦点をあてていると、クラシック~現代音楽の歴史の大部分を担っている、ヨーロッパ全体でのチェンバー・ミュージックの動向を見過ごしてしまう可能性があるため、今回「ヨーロッパ・チェンバー」の項を設けた。その重層的な音楽の蓄積からは我々の想像をはるかに上回るほどの芳醇な音楽が奏でられていることだろう。

 「南米のラージ・アンサンブル」では、ジャズ、管弦楽、伝統音楽を横断する音楽性を持つ南米各国のラージ・アンサンブルを紹介する。アルゼンチン、ブラジル、コロンビア、ウルグアイ、チリ各国から、同時代的な世界の音楽に目を向けながら独自のアンサンブルを奏でるグループが続々と登場している。

 「南米のチェンバー・ミュージック」では、クラシック音楽とポピュラー音楽との垣根が低い南米で近年奏でられるチェンバー・ミュージック/チェンバー・ポップの傑作を紹介する。

 「インディー・クラシック」「南米のチェンバー・ミュージック」「南米のラージ・アンサンブル」のそれぞれのセクションから、yMusic、ベンジ・カプラン、ロウレンソ・ヘベッチスへのインタビューを行った。

 今回の特集では取りあげなかったが、ジャズの世界でもマリア・シュナイダーをはじめとしたラージ・アンサンブル勢がクラシック~現代音楽の要素を取り入れることでそのサウンドに磨きをかけているし、ここ日本でも蓮沼執太や林正樹、中島ノブユキといった才能たちがチェンバー・ミュージックに新たな可能性を見いだしていることも付記しておこう。では、世界各地で同時進行しているチェンバー・ミュージックの面白さを、前述した異質性を探りながら、じっくりと堪能してもらうことにしよう。

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