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[2022.6]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2022年6月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】
「ロシア」「ウクライナ」に関係する内容の可能性がある記事です。
極端な内容・真偽不明の情報でないかご注意ください。ひとつの情報だけで判断せずに、さまざまな媒体のさまざまな情報とあわせて総合的に判断することをおすすめします。 また、この危機に直面した人々をサポートするために、支援団体へのリンクを以下に設置します。 ※非常時のため、すべての関連記事に注意書きを一時的に表示しています。
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[2022.6]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2022年6月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

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e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Black Mango · Quicksand

レーベル:Gusstaff [22]

 Black Mangoは、フランスのパーカッショニスト兼プロデューサー、フィリップ・サンミゲルのワールド・フュージョン・プロジェクトのこと。
 フィリップは、マリ・バマコを拠点に活動して16年、高い評価を得ているマリのブルースを奏でるSamba Touréや、ソンガイ族のアーティストAnansy Cisséをはじめとしたマリの新進気鋭のアーティスト達のアルバムをプロデュースしてきた。彼らのアルバムに関わり、フィリップ自身のロック文化から受けた影響を少しずつ作品に加えたいと思うようになった。2014年にまずEPとしてリリースし、そこからフルアルバムのアイデアが膨らみ、今回ようやくアルバムとしてのリリースするに至った。
 ロック、ダブのテクニック、ブルース、そしてマリの伝統音楽などを巧みに組み合わせ、魅惑的な楽曲に仕上がっている。アルバムには、フィリップと共に仕事をしてきたアーティスト達、Samba Touré、Anansy Cissé、Mariam Konéらが参加している。数年かけてバマコで様々なレコーディングセッションを行い、事前に用意されたリズムとメロディーをベースに、それぞれのアーティスト達が自由に演奏した。ミックス、マスタリングは、オーストラリア在住のプロデューサー、ミュージシャンであるHugo Raceが実施。マリのエネルギーに、Hugo独自のタッチを加え、洗練された仕上がりになっている。カッコイイです!

19位 Iberi · Supra

レーベル:Naxos World Music [21]

 ジョージアの男性声楽家グループ、Iberi の最新作。元ラグビー選手だったBuba Murgulia が率いて2012年に結成されたグループで、本作がセカンドアルバムとなる。
 ジョージアの多声音楽(ポリフォニー)はコーカサスの山岳音楽として何世紀にもわたって受け継がれ、2001年にはユネスコの「世界無形文化遺産」として登録されたほど。一般的には、三部(三声)構成で歌われるが、声の組合せ方は地方によって異なるそうだ。それほど人々の生活に根付いた音楽であるのだろう。本作には、教会音楽や子守唄、労働歌、歴史的な音楽、そして宴会のための曲などが収録されている。タイトルの「Supra」とはテーブルクロスのことだが、ジョージアでは「宴会」のことも意味する。古くからジョージアに伝わる伝統で、多くの歌やワイン、食べ物がある一方で教育的価値もあり、人生の本質的な価値を、両親や祖先、祖国についての知識を子供の頃から学ぶことができる機会だという。その伝統を大事にすべく、本作タイトルにしたとのことだ。
 アカペラで歌うほかに、ギターやジョージアの伝統楽器であるチョンリ(4弦の長首リュート)、パンドゥリ(3弦の長首リュート)の伴奏で歌っている。男声の荒々しさと繊細さが混ざり合い、ハーモニーがとても豊かで美しい。聞き惚れてしまう。ジョージアの文化の豊かさが感じられるアルバムだ。

18位 Somi · Zenzile: The Reimagination of Miriam Makeba

レーベル:Salon Africana [13]

 ルワンダとウガンダから移住してきた両親のもとアメリカ・イリノイ州で生まれたボーカリスト / 作曲家 / 作家のソーミの最新作。前作の『Holy Room - Live at Alte Oper with Frankfurt Radio Big Band』でアフリカ系女性としては初めてグラミー賞ベスト・ジャズ・ボーカル・アルバムにノミネートされた実力派歌手。本作は、”ママ・アフリカ”ことミリアム・マケバの生誕90年を記念して、マケバの音楽的貢献と社会的正義のメッセージを称えるためにリリースしたトリビュート作品である。
 ミリアム・マケバは、2008年に亡くなった南アフリカ共和国のシンガーソングライター。1950年代に南アフリカだけでなく全米やヨーロッパでも人気があった歌姫で、世界的に認められた最初のアフリカ人ミュージシャンの一人。母国のアパルトヘイト制度を反対していたため国外追放されてしまい、母国に帰れずアメリカやギニア、ベルギーなどに移住し音楽活動をしていた。帰国できなかったため、母親の葬儀にも参列できなかったという。アパルトヘイト撤廃後は、国連食糧農業機関の親善大使を務めるなどアフリカのために貢献し、2005年に引退を発表した。
 本作は、マケバの功績を讃え、彼女の生涯をもとにつくられたミュージカル劇「Dreaming Zenzile」がベースになっている。この主演と音楽を務めたのがソーミで、10年近い準備期間を費やし今年初めに初公演が行われた。
 マケバの楽曲には、南アフリカのコサ族の言語の発音であるクリック子音(舌を口の中で鳴らしカスタネットのような音がする)が用いられる。本作にも、それが織り込まれておりソーミがマケバをリスペクトしていることが伺える。マケバの代表曲がソーミの解釈により洗練されたアレンジとなり、しなやかなヴォーカルが非常に心地良い。
 またゲスト陣も豪華!南アフリカからは、グラミー賞を受賞した男性ボーカルグループ Ladysmith Black Mambazo、シンガーソングライターのMsaki、ボーカリストで活動家の Thandiswa Mazwai、ジャズピアニストで作曲家のNduduzo Makhathiniが参加。アメリカのジャズシンガー Gregory Porter、フェラ・クティの息子のセウン・クティや、アンジェリーク・キジョーも参加している。

17位 Perrate · Tres Golpes

レーベル:Lovemonk [-]

 フラメンコ歌手(カンタオール)Tomás de Perrate の11年ぶりの3枚目となるアルバム。彼は、19世紀半ばからフラメンコが花開いたスペイン・アンダルシアの町ウトレラ出身で、フラメンコ歌手であるペラーテ・デ・ウトレラを父にもち、叔母も有名なフラメンコ歌手(カンタオーラ)、従兄弟たちも有名なパフォーマーである。また母方にはフラメンコの伝説的歌手マヌエル・トーレもおり、歌や踊り、ギターといった文化に囲まれて育った。若い頃はジャズやロックのバンドで歌ったこともあるそうだ。
 本作は彼自身のルーツの遺産となる伝統的な歌を現代に蘇らせ、それをフラメンコの未来へも繋がるよう現代性を探りつつ制作された。プロデューサーは、シルビア・ペレス・クルスのアルバム『Granada』や、ロサリアのデビューアルバム『Los Ángeles』の名プロデューサーであり、マルチインストゥルメンタリストでもある Raül Refree が担当。数年かけたプロジェクトとしてこのアルバムのコンサートも含めて制作された。収録曲はアフリカ人奴隷、アメリカ先住民、スペイン人とポルトガル人を中心としたヨーロッパの冒険家たちが集まっていた「アフロ・アンダルシア・カリビアン」と呼ばれる多文化地域を通過した16〜17世紀の古い曲をPerrateが選曲し、アレンジしたものがほとんどである。
 Perrateの父親譲りの深い声と、ギターの相性がとても心地よい。新進気鋭のプロデューサーとタッグを組み、フラメンコの進化を感じさせ、時代を超えた作品である。 

16位 Amélia Muge · Amélias

レーベル:Uguru [-]

 モザンビーク生まれのポルトガル人歌手、楽器演奏家、作曲家、作詞家で、ファドの声と詩的な歌詞で知られているアメーリア・ムージェの最新作。最初のソロアルバムをリリースしたのは1992年、キャリアは30年にも及ぶ。伝統音楽のルーツ探求や多文化フュージョンへの挑戦、ポルトガルでは声楽のパイオニアでもあり、自分の声からサンプルを作り、音色の可能性を開発、表現するなど多彩なクリエイターでもある。
 本作はアカペラを中心とした女性グループ歌唱の豊かさへのオマージュとして制作された。パンデミックにより各自が隔離された状況に直面し、芸術の世界の脆弱性を深刻に感じ、無力感を抱いていた時に本作を制作することを決めたという。2018年作『Archipelagos - Passages』でギリシャとポルトガルのミュージシャン数十人と共同開発したが、そのメンバーも遠隔で加わり自宅で制作されたそうだ。
 アメリアの声がメインとなり、そこに女性コーラス、電子音やパーカッションが加わっている。シンプルな構成だが、音色、雰囲気がとても豊かな作品となっている。まさにタイトル『Amélias』通り、彼女の思い描く世界が見事に表現されたアルバムとなっている。

15位 The Good Ones · Rwanda… You See Ghosts, I See Sky

レーベル:Six Degrees [19]

 ルワンダの3人組ユニット The Good Ones の4作目となるアルバム。過去3作と同様、グラミー賞受賞経験もある音楽プロデューサーで作家のイアン・ブレナン(Tinariwenの『Tassili』などをプロデュース)が本作もプロデュースを行なった。イアンとその妻でイタリア系ルワンダ人写真家・映像作家のマリレーナ・ウムホーザ・デリが、メンバーの農場で彼らの演奏を録音した。
 ルワンダは元々フツ族、ツチ族、トゥワ族の3つの部族で構成されていたが、ベルギー人入植者によってツチ族とトゥワ族を優遇するまで、何世紀も平和に共存していた。しかし部族を対立させ、そこで発生した部族間における憎悪を煽った結果、1959年と1973年、そして1994年のルワンダ大虐殺に繋がったとされている。メンバーは全員、大虐殺の生存者で、それぞれ三つの部族をルーツに持っている。本作は、ルワンダの大量虐殺の犠牲者を追悼する日(4月7日)に合わせてリリースされた。
 一曲目は「The Darkness Has Passed (Genocide 1959-1994)」というタイトルで、まさにルワンダに起こった35年に及ぶ悲劇を歌ったもの。ギターソロとパーカッションというシンプルな演奏、そして多くの人の悲しみを代弁するかのような歌声が胸に沁みる。しかし、アルバム全体は悲しみばかりでなく、ルワンダの自然や彼らの日常を歌う素朴な歌も収録されている。鳥の囀りなど自然の音が入っているのも農場でのライヴ録音ならではで、彼らの生活が垣間見える。
 1曲だけプロデューサーのイアンと親交があるアメリカのジャズミュージシャン、ダニエル・カーターがゲスト共演している。メンバーに寄り添うようなダニエルのサックスが、彼らの素朴さをさらに引き立たせている。
 アルバムタイトルは「ルワンダ…あなたは幽霊を見て、私は空を見る」。
演奏や歌がとてもシンプルであるが故に、彼らの強さや人間性を感じられる作品だ。

14位 Yungchen Lhamo · Awakening

レーベル:Tibet Arts Management / Six Degrees [10]

 チベットのラサで生まれ育ったシンガーソングライター、ユンチェン・ラモの最新作。これが6枚目のアルバムとなる。彼女の名前は「メロディーの女神」という意味を持つ。音楽の夢を追いかけるため、ヒマラヤ山脈を越えインドへ、その後オーストラリアに移住した。そこで瞑想の祈りを歌い始めたことがきっかけで音楽への道へと進み始め、ファーストアルバムはオーストラリアでベストワールドミュージックアルバム賞を受賞している。現在はニューヨーク在住で、カーネギーホールをはじめとした世界各地の有名ホールで公演を行ったり、多くのミュージシャン達とも共演、映画のサントラにも携わっている。
 2019年6月にマドリードで公演したことがきっかけで、本作のプロデューサーとなるフリオ・ガルシアとカルメン・ロスと出会い、今回のアルバムを制作することになった。本作はスペインで録音され、フラメンコの伝説的女性歌手であるカルメン・リナーレスも特別ゲストとして参加している。最初はお経を唱えるように始まり、徐々にフラメンコと融合し、最後はお経のように終わる。フラメンコとお経がこんなにもマッチングするとは驚きだ。
 彼女の美しく強い声が、波動のエネルギーとなって心に響く。低音も高音も素晴らしく、精神的にも内側から解放されるような、とてもスピリチュアルな作品だ。

13位 V.A. · Folk and Great Tunes from Siberia and Far East

レーベル:CPL-Music [-]

※本作の音源、動画共にデータがなく、以下のサンプル音源しかありませんでした。全曲聴けないので、レーベル紹介文を以下に提示しておきます。

 「 "シベリア" を一度体内に入れると、決して抜け出せなくなる。私は幼少期をタイガで過ごしたので、タイガが恋しいのです」と、ロシアの民族音楽専門家で音楽家のダリヤーナ・アンチポワは言う。彼女の目的は、あらゆる決まりごとを越えて、生き生きとしたシベリアの民族音楽をもっと知ってもらうことです。そしてそれは、彼女が考えるフォークシーンの最重要プレイヤーを紹介するサンプラーで最も効果的なのです。
 シベリア民謡は、この国で知られている「一見本物らしい」ソビエト民謡の合奏団やプロの合唱団が対象ではありません。それを理解するためには、歴史を遡る必要があります。かつてのソ連では、国家は自らを国内の先住民の「教育者」とみなしていました。モスクワは、国家の公式な教義に合うようなガイドラインを提供しました。この政策は、先住民の文化的伝統とは全く関係ないものでした。しかしこの20年間で、「ソ連の公式な伝統」の廃墟から、民俗音楽の独立したプロジェクトがどんどん生まれてきました。シベリアや極東の地域では、1950年代に経験した攘夷を今でも語り継いでいます。当時、モスクワは、この地域の多くのロシア系住民や先住民に対して、国が建設した住宅がある大きな集落に移住するよう圧力をかけていました。人々は、ライフスタイルの「近代化」を明確に奨励されましたた。しかし、その努力は必ずしも成功したとはいえません。もう一つの問題は、伝統的な民間伝承が21世紀に入ってソ連時代と同じように急速に失われつつあることです。グローバル化が進み、文化の違いが平準化されたおかげだ、とダリヤナ・アンチポワは嘆いています。
 ロシア極東からやってきた音楽家は、シベリア・シーンのよき理解者でも知らない人はいない。"Ethnicart" のプロジェクトマネージャーである Elena Tyurinaさんに電話をしてお願いをしました。カムチャッカ、チュコトカ、マガダン地域の代表として、Olga Lastochkina、Oleg Napevgi、Yosif Zhukov、Gubernator、Lydia Chechulinaらが 参加しています。オムスク地方とノヴォシビルスク地方、クラスノヤルスク、ティヴァ共和国の音楽家は、Vedan Kolod、Dmitry Paramonov、Oktai、Sretenie、 KrAsota といったグループや音楽家が代表的です。
「シベリアの民族文化や先住民の音楽的多様性は膨大です。でも音楽家のメロディーを聴きながら、一緒に冷たい空気を吸えるなら、それはとてもありがたいことです」とダリヤーナ・アンチポワは書いています。

12位 Park Jiha · The Gleam

レーベル:Tak:til / Glitterbeat [8]

 韓国で高い評価を得ている作曲家、マルチアーティストのパク・ジハの3枚目のアルバムとなる最新作。アルバムタイトルは「煌めき」を意味し、音楽と光の交わりをテーマにした作品となっている。韓国ウォンジュ市にある安藤忠雄が設計した美術館「ミュージアムSAN」にあるスペース「瞑想館」での特別公演のために作られた曲も収録されている。この公演はコロナの影響で日程がかなり延期になってしまったそうで、その期間アルバムを制作するのにじっくりと集中できたとのこと。
 前作同様本作でも彼女がすべての楽器を演奏している。アルバムジャケットの写真は、センファン(Saenghwang)という日本の笙に似た韓国の伝統楽器。他にも、オーボエのような木管楽器ピリ(Piri)、打弦楽器のヤングム(Yanggeum)や、グロッケンシュピールを彼女一人で演奏している。それぞれの音を録音し重ねているのだろうが、その重なり具合や音の質感、無音になるまでの間隔や呼吸感が絶妙で、光を音として見事に表現している。
 上記動画一つ目はサイレントモノクロ映画「Sunrise」のサウンドトラックとして制作された曲、二つ目は「瞑想館」での公演の様子。素晴らしいアルバムなので、これらの動画も堪能していただきたい。

↓国内盤あり〼。

11位 Gonora Sounds · Hard Times Never Kill

レーベル:The Vital Record / Dust-to-Digital [9]

 盲目のギターの名手であり、シンガーソングライターでもあるダニエル・ゴノラが率いるジンバブエのバンド Gonora Sounds のファーストアルバム。2004年から路上で演奏活動を行なっていたが、2016年、路上で息子(ドラム担当)と演奏する動画が1000万回以上のビュー数を得て爆発的な人気となった。その後、この親子デュオはドキュメント映画に出演したり、世界の様々なアーティストとコラボしたりと大活躍。ついにアルバムを制作することになり、ジンバブエの音楽界の大御所とアメリカのプロデューサーによるプロデュースでリリースされた。
 親子二人で活動していたが、近年ギター、ベース、コーラスのメンバーも加わり音に厚みが増した。彼らはジンバブエの音楽であるスングラ(Sungura)を演奏する。スングラはジンバブエ独特の音楽で、アフロキューバ、コンゴ、ケニア、南アメリカなどのルーツを持ち、それらが融合しているのだが、海外で聞かれるのは今は非常に稀なことなのだそう。 
 ダニエルが弾くエレキギターと情熱的なヴォーカル、それを支えるメンバーのコーラスが、軽やかで陽気な雰囲気を感じる。アルバムの最後は「アーメン」で締めくくられており、彼らの人柄が伝わってくるようだ。
 上記動画では、ギターにマイクをくくりつけて歌うダニエルの姿がとても印象的。ハンデを持って路上で演奏してきたからこそのアイデアだろうが、なんと理にかなったことかと驚いた!

10位 Noori & His Dorpa Band · Beja Power!: Electric Soul & Brass from Sudan’s Red Sea Coast

レーベル:Ostinato [-]

 スーダンの革命のサウンドトラックであり、ベジャ文化の中心地であるスーダン東部の紅海沿岸の都市、ポートスーダン出身のバンド、ヌーリ&ドルパバンドの最新作。ベジャ・サウンドとして初の国際リリースとなる。
 タイトルの『Beja Power!』のBejaとは、スーダンの北東部の部族、べジャ族のこと。その祖先は数千年前にまでさかのぼることができ、古代エジプトやクシュ王国の末裔とも言われている。ベジャ族の文化はあまり知られていないがそれには意図的な理由がある。紅海に面したスーダン東部の彼らの土地は、膨大な金鉱床に恵まれまた呪われてもおり、その多くは外国企業に売却されている。ベジャ族を認め、自分たちの土地で採掘された富を利用しようとするベジャ族の声に、歴代のスーダン政府は目をつぶってきた。
 ヌーリは、ベジャ族の音楽を解き放つことが、公平と正義を求める彼らの最も強力な抵抗行為になると考え音楽活動を行なってきた。
 ベジャのメロディーは、ノスタルジックで、希望に満ち、甘美で、曖昧で、正直で、何千年も前から存在している。古いベジャの録音はほとんど制作されておらず、残っていたとしてもとても少ない。そんな中で本作の国際的リリース。これはとても貴重な音楽であると言えよう。
 エレクトリック・ソウル、ブルース、ジャズ、ロック、カントリーなどの音楽のスタイルにトゥアレグ(砂漠のブルース)、エチオピア、ペルー、タイの音楽がミックスされたようなグルーヴ感がなんともやみつきになる感じ。またヌーリの自作した4弦楽器(上記動画で確認できます)も面白い!
 彼らのベジャ音楽は、脈々と受け継がれてきた魅力的なサウンドの、途切れることのない連鎖を形成している。ベジャの文化がさらにこのまま続くよう希望を持ちながら聴きたい。

9位 El Khat · Albat Alawi Op. 99

レーベル:Glitterbeat [6]

 イエメン人のルーツを持つエル・ワハブ (Eyal el Wahab)がリーダーで、イスラエルのテルアビブを拠点とするバンドエル・カート(EL Khat)のセカンドアルバム。エル・ワハブがアルバムのほとんどの曲を作りアレンジしている。
 テルアビブで育ったエル・ワハブは独学で音楽を学び、エルサレムの管弦楽団にチェリストとして入団した。独学だったので楽譜は読めず、演奏曲を耳で覚えながら活動していたが、1960年代のイエメンの伝統音楽「Qat, Coffee & Qambus: Raw 45s from Yemen」を聞いた時に進む道を変えた。彼の持つルーツがそう変えさせたのか、楽団を辞め、楽器を作り始め、そしてこのバンドを結成した。
 使われている楽器は、捨てられていたガラクタ(金属やプラスチック、木など)で自作したもの。ゴミさえも楽器にすることができる家族の故郷を思い起こしながら、人が必要としないものを使うというコンセプトを持ち活動している。楽曲はシンプルなのだが、レトロフューチャー的なサウンド。中東のサイケデリック音楽と言われており、魅力的なグルーヴがあり中毒性を持つ音楽だ。そして自作の楽器を使いこなしているメンバーの表現力も素晴らしい。これからのアラブ音楽を牽引していくだろう新世代のアルバムだ。

↓国内盤あり〼。

8位 Bonga · Kintal da Banda

レーベル:Lusafrica [2]

 アンゴラ出身のミュージシャン、ボンガの5年ぶりとなる最新作。1942年生まれ今年で80歳!キャリア50年で、アンゴラのレジェンドとも言えるシンガーである。
 アンゴラで育った彼が、家族や友人から受けた教育や人生経験を称えて作られたアルバムで、タイトル『Kintal da Banda』とは彼が育った家の中庭を意味する。28年間彼と共に活動してきた音楽監督であり、優れたギタリストでもある Betinho Feijó がプロデュースしている。
 1960年代にオランダに亡命し現在はパリ在住だが、アンゴラ音楽に与えた影響は大きく、アンゴラの伝統音楽センバ(Semba)を世界中のステージで披露している。
 1999年にマリーザ・モンチ、カルリーニョス・ブラウンともコラボしたが、本作でもフランス系アルジェリア人女性アーティストのカメリア・ジョルダナ(Camélia Jordana)と共演している。これが哀愁漂うメロディで二人の情熱的な声がマッチしていてとても良い。この曲では、アンゴラの伝統や習慣を呼び起こすメッセージが込められている。アルバム全体にも同様にアンゴラへのルーツ回帰を提唱している。Betinho のギターの音色とボンガのハスキーでパワフルな歌声が非常に心地良く、魅惑的なアルバムだ。

7位 Rokia Koné & Jacknife Lee · Bamanan

レーベル:Real World [3]

 西アフリカのマリ出身の歌手、ロキア・コネの、これが世界デビューとなる1stアルバム。幼い頃から音楽に囲まれて育ち、現在はアンジェリーク・キジョーが率いるグループ「Les Amazones d'Afrique」のメンバーでもあり、「バマコの薔薇」とも呼ばれている実力派歌手。本作は、アイルランド出身カリフォルニア在住のプロデューサー、ジャックナイフ・リーとタッグを組んだ作品である。ジャックナイフ・リーは、U2、R.E.M、The Killersなどの大物プロデューサーであり、コロナ禍だからこそ実現できたチームである。
 このアルバムは、マリのバンバラ族へのオマージュであり、彼らの伝統的な言語、文化、習慣に対してリスペクトを込めて作られた。伝統にリスペクトしながらも、アフリカに未だ残る女性を軽視する制度や習慣にも批判している。
 アルバムは、マリの伝統的なグリオを想像するメッセージ性の深い曲からスタートし、マリのグルーヴ感が随所に感じられる。アメリカ在住ロックのプロデューサーを迎えているが、彼女の声がとても魅力的で、とてもダイナミックであるからそう感じるのだろう。上記動画の「N'yanyan」は、エレクトリック・ピアノだけの伴奏で、スローテンポの美しい曲。この曲が収録されたのは、マリでクーデターが発生し、停電と夜間外出禁止令が発令される直前で、ワンテイクで録ったというから驚いた。深みがあり美しい歌声が一回で録れるとは…!
 この曲は全世界の人にもメッセージが込められている。「今の(コロナで)困難な状況はいつか終わる。この困難は一瞬のことであり、すべてのことは過ぎ去る」と。

6位 Vigüela · A la Manera Artesana

レーベル:ARC Music [7]

 小説『ドン・キホーテ』の舞台で知られるスペイン中南部のカスティーリャ・ラ・マンチャ出身の5人組ユニット、ヴィグエラ(Viguela)の最新作。
本作が9枚目のアルバムとなる。2月に6位で初ランクイン、3月に1位になり、5ヶ月連続で上位をキープしている。
 1980年代半ば頃から活動しているベテラングループ。2016年頃から海外に向けて進出し、ヨーロッパ各地のフェスティバルなどで演奏、ワークショップも行なっている。スペインが国の事業として海外に文化を紹介する活動の企画にもピックアップされ、フラメンコ以外のスペイン伝統音楽を国際的なプロのステージで披露した最初のグループでもある。
 アルバムタイトルは「職人道」という意味。本作では「職人的な創造性」ということに焦点を当て、スペインの舞踏音楽であるファンダンゴ、ロンディーニャ、セギディージャ、ホタ、そしてアカペラで歌うトナダ、活気のあるソンなど、様々な地域の伝統的なスペイン音楽をこのアルバムで紹介している。
 スペインの地方で古くから根付いている曲を今もなお守り続け、それを世界に向けて発信しようとしている活動はとても素晴らしい。スペイン音楽の力強さとともに、彼らの「職人」としての意気込みが感じられる。

5位 De Kaboul à Bamako · Sowal Diabi

レーベル:Accords Croisés [5]

 多国籍なメンバーたちによるプロジェクト「ソワル・ジャビ」のアルバム。タイトルは『カブールからバマコへ』という架空の道からインスピレーションを得て、南アジア〜アラブ、西アフリカ圏の亡命を経験した歌手やミュージシャンたちが集まった。参加しているのは、マリの歌手ママニ・ケイタ、イランの歌手兼バイオリニストのアイダ・ノスラット、イランのタール奏者ソゴル・ミルザエイ、クルド出身のトルコ人歌手ルシャン・フィリズテック、アフガニスタン出身のタブラ奏者/歌手シアー・ハシミ、そして、パリ出身の大人気エスノ・ジャズ・ファンク・バンド、アラ・キロのメンバー6人。2019年にベルギーで、難民問題を題材にした舞台「De Kaboul à Bamako」のために作られたプロジェクト。「ソワル」とはペルシャ語で「質問」、「ジャビ」はバンバラ語で「答え」を意味し、難民問題に対する問いと答えを投げかけている。
 ヨーロッパやアフリカなど様々な地域から集まった異文化のミュージシャンたちが、国境を越え作った音楽で、時にはマリを、時にはバルカンや中東が感じられ楽曲がとても豊か。ママニ・ケイタとアイダ・ノスラットの歌声がとてもパワフル!様々な文化の出会いが演出されておりとても素晴らしい作品だ。

↓国内盤あり〼。

4位 Marjan Vahdat · Our Garden Is Alone

レーベル:Kirkelig Kulturverksted [1]

 テヘラン生まれのイラン人歌手、Marjan Vahdatの最新作。4月に5位で初登場、5月は1位を獲得し今月も上位にランクイン!
 彼女は、1995年から活動しているベテラン歌手。生まれ故郷のイランの音楽と詩に関する知識を世に広めるため、世界各地でコンサートやフェスティバルに出演し活動している。本作は彼女のソロ作としては3枚目で、ノルウェーのレーベルからリリースされた。プロデューサー、アレンジャーに、ノルウェーのジャズミュージシャン、Bugge Wesseltoft を迎え制作された。
 イラン各地の伝統音楽と詩からインスピレーションを受け、彼女自身が歌詞と曲のほとんどを作っている。また、同じミュージシャンとして活動している姉の Mahsa Vahdat もいくつか楽曲提供を行なっている。イランの伝統音楽をベースに、現代的な表現を加えた彼女独自のスタイルが確立されている。
 他のミュージシャン達と同様このアルバムもコロナが制作に影響を与えたようで、録音はアメリカ、イラン、ノルウェーで行われた。まず彼女のヴォーカルを録り、それをもとにミュージシャンが1人ずつアレンジを加えていく。それをノルウェーにいるプロデューサーがこれらを見事にまとめ上げた。オーセンティックで調和のとれたサウンドスケープとなっている。
 故郷を想い歌っているように聞こえるが、それだけではなく世界への普遍的なメッセージとして受け取ることができる。歌の深みが心に沁みる美しいアルバムである。

3位 África Negra · Antologia Vol. 1

レーベル:Les Disques Bongo Joe [4]

 赤道付近に位置するアフリカの島国サントメ・プリンシペのグループ、África Negra のアンソロジー作品。本作は彼らの代表曲12曲をセレクトしリマスタリングしたもの。
 África Negra は1970年代初頭に結成され、サントメ・プリンシペでよく知られたグループである。最初の録音は1981年に行われ、アンゴラやカーボベルデ、ポルトガルなどを回るツアーを成功させた。
 サントメ・プリンシペは、かつてポルトガル領であり、サトウキビやコーヒー、カカオの栽培が盛んで、奴隷貿易の中継地点でもあったため、ポルトガル、アンゴラやカーボ・ヴェルデなどから多くの人が流入した。そのような背景から、アンゴラのセンバやカーボ・ヴェルデのコラデイラ、さらにはブラジル音楽やカリブのメレンゲ、コンゴ共和国のリンガラ音楽など、多くの音楽文化が取り入れられ、サントメ・プリンシペ独自のPuxa(プシャ)と呼ばれる音楽が成立した。África Negra は、そこにアフリカ音楽特有のエレキギターによるフレーズを入れ、キャッチーなメロディーと陽気なリズムが組み合わさる魅力的な音楽を展開していた。
 本作は選び抜かれた楽曲が集められているだけに彼らのグルーヴ感やエネルギーがとても感じられる作品。この続編として、ツアーマネージャ―が残していたというスタジオテープからデジタル化された未発表音源もリリースされるという。それも非常に楽しみである!

2位 Catrin Finch & Seckou Keita · Echo

レーベル:Bendigedig [24]

 イギリスのハープ奏者カトリン・フィンチとセネガルのコラ奏者セク・ケイタのデュオ最新作。このデュオとしては、2013年のデビュー作『Clychau Dibon』、2018年作『SOAR』に続く三部作の三作目となり、デュオ10周年を記念した作品。
 前作は好評を博した作品だったが、本作もそれを越えるような作品。さすがデュオ10周年ともなると、ジャンルの垣根を越え二人の呼吸がぴったり合った作品となっている。
 本作の基本テーマは、彼らの関係を、ひとつのシームレスな創造的全体へと発展させることだそう。タイトルの『エコー』は、愛、人間関係、死、記憶の重要性にも焦点を当てている。これらのテーマは、この2年間の世界的な状況を考え、多くの人が考えている大きな実存的なテーマとなっている。
 音色が似ているともいえるコラとハープ、これらの音が重なるとさらに美しく豊かに広がるのが本当に素晴らしい。収録されている曲数は7曲とそんなに多くはないが、各曲が長めとなっていて、美しさを充分に堪能できる。じんわりと心に沁み入る音色が美しい作品。

1位 Oumou Sangaré · Timbuktu

レーベル:World Circuit / BMG [20]

 マリ・バマコ出身のベテラン女性歌手ウム・サンガレの最新作。先月20位にランクインし、今月は堂々一位!
 5年ぶりの作品で、本作が9作目となる。現在のマリ、コートジボワール、ギニアの3カ国の国境が交わる地点を囲み、ワスル川流域にある文化圏および歴史的地域でもあるワスル地方の伝統音楽、ワスル音楽を代表するアーティストでもある。
 1989年に1stアルバムをリリースして以来精力的に活動しており、これまでリリースされたアルバムがグラミー賞のベスト・ワールド・ミュージック・アルバムにノミネートされるなど、大きな評価を得ている。また、アリシア・キーズとテレビ番組でデュエットしたり、同じマリ出身のアーティストAya Nakamura が彼女に捧げる歌「Oumou Sangaré」をリリースしたり、2019年にはビヨンセが映画『ライオンキング:ギフト』のサウンドトラック「Mood 4 Eva」で、彼女の代表作の一つ「Diaraby Néné」をサンプリングするなど、多くのアーティストから慕われている偉大な存在。
 本作はパンデミック中に渡米したところロックダウンとなってしまい、滞在が延長され、その中で生まれた楽曲がほとんどを占めている。同郷の旧知の友人であるカマレ・ンゴニ奏者のママドゥ・シディベとともに楽曲制作を行った。彼女の30年にわたるキャリアの中で一番、音楽、歌詞に向き合った時間だったと言う。
 タイトルの『Timbuktu』は、マリ中部にある砂漠の民トゥアレグ族の都市のこと。崩壊の危機にあるマリの現在の政治状況を憂慮し、かつて栄えたこの都市がマリの象徴である歴史に希望を見出すべく名付けられたそうだ。また、アフリカの悪しき習慣、強制結婚や一夫多妻制などで制限されている女性達の状況も表現している。強く訴えているかのような低くパンチのある声、そして時には女性達に寄り添うような優しさ溢れる声がとても印象的。ワスル音楽の伝統的なリズムと現代的なアレンジがうまく噛み合い、サウンドが心地良い。
 彼女は実業家でもありマリで事業を興し、そこで雇用を生み、また彼女自身の財団を作り生活に困難な女性や子供達を支援するなど、音楽活動だけに留まらず、社会活動にも大きく貢献している。マリはもとよりフランスからも勲章が授与され、ユネスコ賞も受賞、2003年に彼女は国際連合食糧農業機関 (FAO) の親善大使も任命されている。
 彼女の活動、社会的貢献を考えると、本作はヒューマニズムの信念に基づく芸術活動の集大成とも言える説得力のあるアルバムだと言えよう。

(ラティーナ2022年6月)

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