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[2018.02]【連載】タンゴのうた 詩から見るタンゴの世界 第1回 エル・チョクロ

文●西村秀人 text by HIDETO NISHIMURA

1回目はアルゼンチン・タンゴの古典中の古典、「エル・チョクロ」である。1903年11月3日、レストラン「アメリカーノ」でホセ・ルイス・ロンカージョのオーケストラが初演したというから、もう114年も経過していることになる。初演時この曲には歌詞がなかったはずだ。タイトルの意味は「木靴」だとか人のあだ名だとか諸説あったが、初版楽譜(1905年)の表紙の通り、作者アンヘル・ビジョルドが好んだという「とうもろこし」そのものだろう。初版出版の頃に作者自身が歌詞を作り、1910年代前半に作者本人の歌った録音が残されている。


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古い録音の状態もあって、今聞いてもよくわからない表現も多いのだが、トウモロコシをたたえる部分と、自分の自慢や境遇を嘆く部分が交互に出てくる不思議なスタイルをとりつつ、最後はウミータ(トウモロコシのクリーム)のおいしさをたたえて終わっている。もともとビジョルドは即興歌を得意としていたので、この歌詞もたぶんに即興的なものなのかもしれない。ビジョルドは極貧のうちに1919年に世を去ったという。

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Angel Villoldo El Chocloの楽譜

1930年、作者の妹であるイレーネ・ビジョルドの依頼を受けて、歌手・作詞家のフアン・カルロス・マランビオ・カタンが新しい歌詞をつけた。マランビオ・カタンはこの他にも名曲「アクアフォルテ」、フリオ・デ・カロ作「ブエン・アミーゴ」の作詞者でもある。

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