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[2020.08]映画『ぶあいそうな手紙』|滋味深く奥ゆかしい人生の締めくくりを輝かせる 心の交流と多様な芸術について描いた傑作

文●圷 滋夫(あくつしげお/映画・音楽ライター)

 冒頭、幼馴染と思われる二人の男の会話が聞こえてくる。やがて映し出されるその姿はぼんやり見えるだけで、手前にアップで映る老人の無表情な横顔にピントが合っている。まるで大胆な浮世絵のような構図だ。老人は一方の男から「パパ」と話しかけられるが、不機嫌そうに短い言葉を投げ捨てるだけだ。そしてカメラは老人を追い、その淡々とした描写は彼の気難しい人となりと視力の衰えをさりげなく伝える。斬新でいて簡潔なその導入の鮮やかさに、いきなり引き込まれていた。

 舞台はブラジル南部のポルトアレグレ。46年前にこの地にやって来たエルネストは妻に先立たれ、今は一人で暮らしている。そしてサンパウロに移り住んだ息子のラミロから部屋の売却と同居を持ちかけられているが、全く聞く耳を持たなかった。ある日ふとしたきっかけで知り合った若い娘ビアに、旧知の女性ルシアからの手紙を代読してもらい、その返事の代書を頼んだことから交流が深まるが、彼女は隠れて不穏な動きを見せる……。

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