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[2018.06]島々百景 #28 シンガポール

文と写真:宮沢和史

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ディック・リー(左)と宮沢和史

 行ってみるまで、シンガポールが島であることを実は知らなかった。1992年にシンガポールを代表するファッションデザイナーであり、シンガーソングライターであるディック・リーが自身で原作、脚本を書き作詞作曲と、さらに主演まで務めたオペレッタ『ナガランド』に出演することになり、稽古とシンガポール公演での滞在を含め、およそ2ヶ月間シンガポールに滞在した。オペレッタとは芝居と踊りをオーケストラバンドを従えて演じられる歌劇のことで、ざっくり言ってしまえばミュージカル。日本語では喜歌劇と言うそうだ。シンガポール、マレーシア、香港から役者やダンサーが集結し、日本からは宮沢が合流した。

シンガポールmap

 1989年、THE BOOMとしてプロデビューし、2年間で3枚のフルアルバムを発表し、その間、何本ものコンサートや学園祭、ロックイベントをこなしていた。3枚目のアルバム『JAPANESKA』を制作中に沖縄に初上陸し、その後どっぷりと沖縄の洗礼を受け、4枚目の『思春期』で「島唄」を発表する。そのアルバムのツアーを経て、僕は心身ともにすっかり疲弊してしまった。念願のプロデビューを果たしてわずか3年しか経っていないのにだ。音楽に疲れたわけじゃない。バンド活動に煮詰まってしまった。コンサートの合間に取材を受け、ラジオやテレビ局を回り、アルバムの制作では1~2ヶ月スタジオに通い、空いた時間は曲作りと雑誌の連載の原稿を書いていた。それでも、わずかな時間の隙間に飲みに行ったりコンサートを見に行ったりしていたわけだから、今思えば信じられないバイタリティー……。若かったから時間を濃密に使えた、というのが一番の理由だろうが、PCと携帯電話がなかったのが大きかったんだと思う。今現在PCと向き合うことに費やしている時間を、外で社交に使えた時代だった。

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