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[2019.04]NIPPONIA 〜南米の歌・南米で愛されるニッポンの歌〜

文と写真●編集部

 宮沢和史がこれまで、中南米諸国の国々を訪ね歩き音楽を通して出会ってきた、その地に根ざしながらも故郷やルーツを想い続ける日系人たちにふれ、「海外出身の歌手たちの歌を通して、日本にいる日本の人たちに〝日本を伝えたい。自分がそうだったように何かを気づいて欲しい〟と開催した『NIPPONIA~世界で愛されているニッポンの歌』から間もなく10年。1908年、日本人移民を乗せた「笠戸丸」が神戸港を出発し、ブラジルのサントス港に入港してから111年。中南米諸国と日本とをつなぐ音楽を追求しつづける宮沢和史の想いを形にした企画の続編が4月に東京と大阪とで開催される。出演者である大城クラウディアとアルベルト城間とを交えて、その内容について聞いた。

── このライヴはいつ頃どのようなきっかけでやろうと思ったのでしょうか。

宮沢和史 二つ流れがありまして。一つは、『NIPPONIA〜世界で愛されているニッポンの歌』というタイトルで、沖縄で2回、長崎、東京で1回づつこれまでに4回(コンサートを)やってきたんですけど、移民として日本から、沖縄から世界へ渡って、現地で産まれ歌手活動している歌手を介して日本の歌、母国の歌、沖縄の歌をやることによって、移民史というものをお客さんに知ってもらいたいということがあります。僕がブラジルに行った時、ポルトガル語しか喋れないような小っちゃな女の子が演歌を歌ったら滅茶苦茶上手いみたいなことがあったのですが、本当に感動するんですよね。彼女の方が日本の歌をよく知っているという場面に遭遇すると、とても自分が恥ずかしくて……。そういう日本人が忘れかけているものが世界でまだ大事にされているということを見てもらい、何か気づきがあるのではないかと。あと、ラテンポップスって意外と聴く機会がないじゃないですか。ラテン音楽を好きな人は聴くけれど、ラテンポップスとなるとほとんど日本では耳に入ってくることがないでしょう。良い曲がたくさんあるのだということも紹介できたらよいなと思っています。

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── ラテンポップスは具体的にもう考えられているのですか?

アルベルト城間 良い曲はほんとにいっぱいあるんだけど、僕が昔、80年代によく聴いた音楽の中から歌ってみたいと思いますね。あと、最近の曲はクラウディアの方がよく知ってるから彼女から色々教えてもらって(笑)。

大城クラウディア 私も最近の流行りはそんなに知らないけど(笑)

アルベルト城間 だから最近の曲をYouTubeとかで探して、こういうのも面白いねって。ある意味では、私たちは(故郷から)遠く離れているから、こういう機会があると、ラテンポップスと再会できるのでいいですね。

大城クラウディア 日本にいるから歌えますよね。アルゼンチンにいた時には全く歌わなかったから。

アルベルト城間 そうだね、僕ら南米では演歌しか歌ってないから!(笑)実際に舞台に立つと求められるのは演歌でしたからね。日本人から見たら不思議に思うかもしれないけど、向こうで日系人の中では普通ですよね。演歌歌って、どっちかっていうと日本で流行っているポップスよりもコブシが入った歌謡曲の方がカッコイイ!ってなるんだよね。それが、NIPPONIAというかたちで、日系人が歌う日本の歌と、向こうで自然に覚えたスペイン語の歌を歌うことになるなんて、不思議ですよね。

大城クラウディア (ラテンポップスを)歌う機会はあまりないかもしれないけど、耳にはよく入るから、音楽的ルーツではあるんですよね。

宮沢和史 俺なんかはね、彼らと付き合ってると羨ましいのよね。スペイン語圏の国々だと、どこの国の曲であろうと共有できるということが。メキシコでこういうの流行ってるじゃん、アルゼンチンでも流行ってるよ、またスペイン本国での歌手の歌が世界中で流行ってる、とか。で、ブラジルはちょっと違うのかっていうとブラジルでもそこは共有できる部分あるよね? アルゼンチンのメルセデス・ソーサとブラジルのカエターノがコラボレーションするとか……。そういうのが羨ましいし、かっこいいなって思う。日本の場合はやっぱり日本だけになってしまいがち、日本語というところで。例えばキューバとアルゼンチンっていったら、国の成り立ちも文化も全く違うけれども、心で共有できるものがあるっていうのは、音楽が成せる技っていうか、音楽だからこそ目に見えないものだからこそ、魂で握手できるという感じがとってもいいなと思っていて、それがこのライヴで再現できたらいいなと。それをみんなに知ってほしい。ラテンポップスは名曲いっぱいあるよね。音楽の宝箱みたいな感じがする。

── クラウディアさんは具体的に決めている曲とかあるんですか?

大城クラウディア 私は、以前「カンターレス」(ラテン音楽ばかりのライヴ)を2回演って、3回目があったらこういう歌を歌いたいなって考えていて、その中からスペイン語の歌を何曲か歌いたいなと思っています。検索して昔の曲とかを聞き直して探したりとか、ネットで新しいものを探してみたりとか。この作業がすごい楽しみだったんですけど、今回もやりました。ラテンファンが好きなスタンダードな曲をやってもいいけど、日本ではあまり聞かれない曲も紹介できたらなと思っています。

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── 日本語の歌も歌うのですよね?

大城クラウディア 日本語の歌はまだ詰めているところです。

アルベルト城間 ま、日本の歌では多分あんまり悩まないと思います(笑)というか、僕の場合はレパートリー決まっているからね、五木ひろしかクールファイブの曲どっちかですね(笑)10代の頃にペルーで歌った曲ね。でも一番好きだけど一番似合わないって言われました(笑)

宮沢和史 南米ののど自慢で優勝して、北米も含めて優勝して、その賞金で日本に来て……

アルベルト城間 そう、きっかけはそのパン・アメリカン大会ね。特にロスの代表が(優勝して日本に)よく来ていたんだけど、他にもメキシコ、アルゼンチン、ブラジルからと……、あの時は五木ひろしじゃない、クールファイブで優勝したんだよ!

大城クラウディア 私も昔一度(パン・アメリカン大会に)出たことある、ブラジルで。

アルベルト城間 もうね、ブラジル勢は圧倒的に強いですからね。数が半端ない!

宮沢和史 その横のベクトルでいくと、その辺り(中南米)のいろんな国、コロンビアとかベネズエラとかキューバとかでバーッと流行ったりするものがあったりして、あとは、インターネット時代だから縦軸も今はあまり関係ないっていうか……。映画『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットするとか、そういうことが起き得る。クィーンの時代であろうが、2019年であろうがネット上では同じに並んでいるわけだから、若い人が「フレディってかっこいいな」って単純に思える時代になってるんだろうね。ブエナ・ビスタ(・ソシアル・クラブ)がいい例だよね。あれの方が先かもしれないね、あの時代の空気感を現代に持ってきたっていう。それで若者たちが感動した「すげーなキューバ!」って……。そういうことが起き得る時代であるので、このNIPPONIAもカンターレスもそうなんですけど、昔の名曲とかもコンテンポラリーなものも、二人のこの歌唱力で現代的な表現でやると「なんていい曲なんだ」みたいなね、そんなことを知ってほしい。「ラテン」っていう言葉が、日本ではアイコンすぎるっていうか、陽気な人たちみたいな(笑)、すごい乱暴なイメージがあるじゃない。今はどうかわかんないけど、「あの人ラテン系だ」みたいな。ひどい言い方だと思うけど。そんな簡単なもんじゃないし、奥深さがあるし。

大城クラウディア 歴史自体が陽気じゃないじゃないですか。

宮沢和史 どちらかっていうと、重い歴史をどうにか人生でいい方に持っていくための表現っていうのがラテン音楽の基礎、中心だと思うんだよね。そういう単純な、ステレオタイプなイメージを払拭したいっていうのもあるし、そのためにはやっぱりラテンポップス、現在進行形の音楽を「あ、いいね」って言ってもらうのが一番いいような気がするんですよね。僕は今回歌も歌うんですけど、ホスト役として、アルベルトとクラウディアを中心に、そこにマルシアもブラジル代表として華を添えてくれるかたちになります。バンドはディアマンテスの主要メンバーです。キーボードの白川ミナは、元々KACHIMBAでピアノ弾いてて、ディアマンテスでもサポートをやっています。現在、宮沢がやっているツアーのメンバーでもあります。で、ベースがディアマンテスのトム仲宗根、パーカッションが石垣島出身の玉城チコがメンバーとなります。東京、大阪のディアマンテスファンも待ちに待ったライヴなんじゃないですか?

アルベルト城間 あ、そうですね、久しぶりに都会のニオイが(笑)久しぶりだから楽しみ! ビルボードでやるというのも、また楽しみですね。かなりハイクオリティな音楽をやっている場所だから、僕らの演奏がどういう風に聴こえるかっていう緊張感もあって、身が引き締まる感じがしますね。

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── 今回、流行っている曲をYouTubeなどで探しているとのことですが、普段は母国の好きなアーティストとかがあって聴いているんですか?

アルベルト城間 そうですね、同じペルー出身なら、最近流行っているGian Marcoかな。彼はリマではよく知られていて、ポップスから入った人なんだけど、段々ペルー音楽を取り入れていき、90年代以降はペルーのポップスに大革命を起こした人です。

大城クラウディア 私が日本にいてもよく聴くのは、結局昔のアルゼンチンの音楽になるんですど。アルゼンチンは今でもその人たちがいたりするから、新しいアーティストで大ヒットするというのはそんなに多くはないですね。でも一昨年アルゼンチンに久しぶりに帰って、フォルクローレ系のバンドも新しいものとか出ててたりして、アルゼンチンの音楽もちょっとは入れ替わりとかあるのかなって。日本にいてもそういう情報は入りやすくなったから、その時に聞いたものから探していくとまた新しいものが出てくるっていうのはありますね。

宮沢和史 特定のアーティストというのもあるけど「あの曲いいよね」って、例えばメキシコから出たものを共有できる感じってのがいいよね。僕らの世代は年表を遡って勉強したりしていくんだけど、今の若い子はほんとにそういうのがなくて、もう亡くなってる過去の人でも「この人かっこいいですよね」「このスカすごいですよね」みたいな感じでの価値観なので、とっても面白い。さっき言ったように横軸縦軸とか関係ない。全てが混ざり同じ価値観で捉えられるってことでいうと、ラテン音楽も日本人にもっと親しんでもらえるといいなと思うんですよね。アルゼンチンでいうとガルデルとかも過去の、白黒の人って感じで昔は思うけど、今はもうそうじゃなくて、すごい人、今でも生きているかのような、メルセデス・ソーサもそうだし、アマリア・ロドリゲスもそうだし。過去の人を勉強をするというよりは、映像もガンガン昔のものも見れるし、そういう意味では「存在する」っていう感じ。元々音楽っていうのは質量がないわけで、誰かが歌い出せばそこで始まるものですから。極端に言えば本人が歌わなくたって。面白い時代ですよね。そういう感じがステージに出てたらいいなと思っています。


── 日系人としてペルー、アルゼンチン等に住んでいた頃は、日本の歌を周りから、おじいちゃんおばあちゃんから聞かされたりして日本らしいものが周りにいっぱいあったと思いますが、日本に来ると、それが逆になり故郷(ペルー、アルゼンチン)の歌に変わったということはありますか?

アルベルト城間 子供の時に普通に聞いていた音楽を人前で歌わなかったからかもしれないけど、求められる音楽ってあると思うんですよね。自分が歌いたい曲と人から求められるものが違ったりするんだよね。沖縄にいた時に「僕は演歌歌手になりたいんです」って言っても誰も見向きもしなかった(笑)でも「あなたペルー人だから『コンドルは飛んでいく』歌って」って言われてもペルーで歌ったことないみたいな(笑)ペルーでは「コンドルは飛んでいく」は、歌うものじゃく、ケーナとかで演奏したりそれを聞くというイメージなんですよ。そんな感じで、歌いたいものと求められるものとが違うんです、僕らの場合はね。クラウディアの場合も「あー、アルゼンチンでしょ? 『カミニート』歌ってくれない?」ってなるよね。歌えなくはないんだけど、歌ったことはなかったんですよね。そしたら求められるものは段々そっちの方が強くなる訳だよね。だから沖縄ではディアマンテスみたいなちょっと変わったバンドが良かった。自分がそれを作ろうというよりも、求められていくうちにできたものってあるんですよね。「ベサメムーチョ」とかはペルーでは古くて歌おうと思わなかった。でも沖縄で歌った。それが仕事になったわけで。歌いたいものと求められているものは違う。日本に来てスペイン語で歌うということは僕らにとってはとても自然な事だったんだね、今思えば。

宮沢和史 「ベサメムーチョ」なんて、俺たちの世代からしたらベタじゃない?みたいな感じだけど、今若い人が聞いたら単に名曲ってなるかもわかんないし、さっき言った年表みたいなものは関係ないと俺は思うのね。そういう実験もしてみたい気もするわけ。単純に曲の良さで勝負みたいなところ。新しいラテンポップスも聞いてもらいながら、そういうコンテンポラリーなものも、フラットに聞いてほしい。

アルベルト城間 クラウディアはそういう「ベサメムーチョ」みたいなタイプの歌、ボレロのすごいベタなやつって……

大城クラウディア 私の子供の頃は、ルイス・ミゲルが歌うボレロとかがすごい流行ってた。その当時でもすごい古い歌だったから、こういうボレロもいいなって思うんだけど。

宮沢和史 ルイス・ミゲルも昔の曲をリメイクして、その時の現代のフィーリングでやるとうける訳じゃない。そういうことなんだよね。我々がやると結構大仕事っていうか、昔の曲を今のアレンジでっていうと、なかなかしっかりやんないと難しいぞってすごく感じる。この間サンパウロに行ったとき、カエターノの呼びかけで開催された無料コンサートに行ったら、ものすごい人で、20代の若い子達も結構いるの。そこでカエターノが古い曲とか歌い出したら、20歳くらいの子達も大合唱してるわけ。この年表の無さっていうか、過去にならない、みんなで共有する感じがすごい美しいなと思って。音楽家として。そういうのもこのコンサートのテーマでもあるんですけど、「普遍だよ」ってこと、みんなのものっていうこと。特にラテン音楽って、過去にならないっていうか、いいものはいい。いつの時代にも合わせてまた出てくるっていう感じはあるよね。ブラジル人もそこはすごくて、若い子が先輩をリスペクトして自分でも歌って、自分のレパートリーにしてたりとかね。とはいえ、そんなに時間があるライヴじゃないので、今話したことやろうとしたらものすごい大掛かりなステージになってしまう。

大城クラウディア じゃ、ヴォリューム1ということで! 

── 先ほどアルベルトさんのデビュー当時のお話をお伺いしましたが、クラウディアさんは日本に来た当初、どんな歌手になりたかったんですか?

大城クラウディア アルゼンチンにいた頃は、ずっと日本の歌を歌っていたので、スペイン語で歌うよりも日本語で歌うことの方がしっくりくるな、歌うんだったら日本語で歌いたいなと思っていました。よく演歌とか歌謡曲とか歌っていたんですけど、やっぱりそこに入っちゃうと枠にはまっちゃいそうで、だったらポップス、ポピュラー音楽というところで、色んな音楽ができたらいいなって思ってました。演歌も要素として入れたりとか、アルゼンチンのラテンポップスも入れられたらなとか。自分のライヴだと自分のオリジナル曲も歌うんですけど、スペイン語のラテンポップスなんかも歌うし、たまに演歌も歌いますし。アルゼンチンの曲も日本の曲もいっぱいいい曲があるから、自分のライヴの中でみんなに知ってもらえたらなって今はそういう思いでやっています。

宮沢和史 二人に共通する特殊なところは、ルーツが三つあるということなんですね。ペルー、アルゼンチン、あと日系人なので演歌も歌うし、日本の文化もわかって、もう一つは沖縄ですよ。血っていう意味だと沖縄が一番強いですからね。三つのルーツがあるっていうところが非常に興味深いところであって、そこの中で自分はどんな音楽をやっていったらいいのかって小さい頃からずっと二人のテーマとしてあった。小さい頃に一番歌っているのは演歌かもしれないけど、聞こえてくるのはラテン音楽だし、おじいおばあは昔の沖縄の話するし、みたいなところね。演歌を歌うつもりでアルベルトは日本に来たんだけど、本当のルーツのところの沖縄にいて求められることに応えてくうちに自分なりのラテン音楽をやっていこう、沖縄を意識した上でみたいなとこでディアマンテスとして、日本語でラテンを歌うバンドができて。クラウディアはクラウディアで、女性一人で単身で来てね、凄いことだなと思うんだけど、自分のルーツはどれだろうって少し迷っているところがあって、ルーツを一つ一つ掘り下げてったらどうだっていうことで、沖縄に修行に行ったんですよね。沖縄民謡のルーツを一回入れてみようってことで、我如古より子さんのお店に何ヶ月か。三線もそんなに弾いてなかったんですけど、弾くようになっていった。で、次カンターレスってスペイン語だけでやってみようってことも試してみたりして。そして日本のポップスもオリジナルの曲作ってやってみて。色々旅を続けてみて、一番最新の「クラリティ」ってアルバムで、ウチーナグチ入ってたり三線弾いたり、でもバリバリポップスやったり、ラテンやったりと、やっとクラウディアらしい形が見えたなって。ちょっと時間はかかったんですけど、やっと自分を見つけて今一番いい位置にいる。沖縄を拠点にディアマンテスも活動している、沖縄で今ディアマンテス知らない人いないですからね。

アルベルト城間 あ、いるよ、たまに(笑)アルバイトですか?って聞かれます。たまにいるんですよ、アルバイト城間だって思ってる人(笑)

宮沢和史 世界でこの人たちしかいない立ち位置っていうかね。三つルーツがあるって非常に興味深いところですね。

(月刊ラティーナ2019年4月号掲載)

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