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[2018.03]特集:アフリカ音楽の新しい地図 2010年代アフリカの音楽地図

文●荻原和也 text by KAZUYA OGIWARA

◆イントロ ~いつまでたっても「西から目線」~

 アフリカ音楽について、自由なテーマで何か書きませんかという依頼を受け、2010年代のアフリカ音楽を、一度きちんとまとめておこうかなという気になった。そうすれば、昨年ミュージック・マガジン誌の9月号で特集された「アフリカ音楽新世紀」への、ぼくなりの返答になるかもしれないと考えたからだ。あの特集記事は、ボーダーレスに拡張していくアフリカ音楽の最先端を捉えていて、とても刺激を受けたのだが、その一方、引っかかりもかなりおぼえていた。

 引っかかりのひとつは、「従来のワールド・ミュージック的な文脈では見過ごされがちな〝新しいアフリカ〟」を紹介するという副題だった。「見過ごされがち」というが、そもそも「従来のワールド・ミュージック的な文脈のアフリカ音楽」じたい、最近ではメディアでの紹介の機会が減っている。だというのに、なぜそれをまた排除しようとするのだろう。特集記事をまとめていた吉本秀純さんの語り口もいやに挑発的というか、けっして数の多くないアフリカ音楽ファン層を、わざわざ分断するような論じ方をしていて、疑問を持った。

 アフリカに限った話ではないが、2010年代に入って非西洋圏の音楽の紹介のされ方が、ワールド・ミュージック・ブーム以前に、また逆戻りしてしまったような気がしてならない。ロックやクラブ・ミュージックなど、欧米経由でなければ非西洋圏の音楽に興味を示そうとせず、文化のグローバル化がますますその悪しき傾向を後押ししているのではないだろうか。

 かつてのワールド・ミュージックのブームは、文化相対主義が西洋中心思想と地続きでしかないという重たい課題を残した。しかしその課題を深刻に受け止めた者は、ごくわずかしかいなかったようだ。世間はあいかわらず、全英チャートで何位になっただの、アメリカの誰それがフィーチャリングされているだので、「これがトレンド」式のクリシェを繰り返している。「上から目線」ならぬ「西から目線」は、どんなに時代が変わろうと、いつまでも続くらしい。

 受け手側の方も、歴史や文化などその音楽の背景にあるものを丁寧に読み解こうとする姿勢が、いつしかないがしろにされるようになり、うわっつらのサウンドの珍奇さだけを面白がるようになってしまった。「辺境」「トライバル」といった偏見や無知ムキ出しの形容詞にまみれた雑な紹介文が、非西洋圏の音楽記事やライナー・ノーツにやたらと目につくようになったのは、いつ頃からだろう。

 目先の新しさに飛びつくのはジャーナリズムの性だし、尖った部分に目が行くのもわからないじゃない。しかし、伝統を更新して前進しようとするアフリカン・ポップスを「従来型」と切り捨て、欧米側からアフリカに接近する動きを捉えて、「アフリカ音楽の再定義」などといわれては、ジョーダンじゃないぜと言いたくもなる。

 歴史や過去の文脈を切断し、最先端を取り上げて新しいトレンドを作り出すことは、音楽評論家の仕事じゃない。それはマーケッターの仕事だ。切断された過去や歴史は放り出され、それがまた無知を再生産する。19世紀人がアフリカを「暗黒大陸」と呼んだように、今度は21世紀人が「辺境」と呼んでいる。

 ぼくは、歴史あるアフリカ音楽が過去の遺産を引き継いで、今どういう姿を示しているのかを丹念に見つめ、これから向かおうとするその先を見ていきたい。過去を知るからこそ、カッティング・エッジな音楽の面白味も倍増するというものなんじゃないだろうか。さらに言うなら、面白い音楽を紹介するだけで終わるのなら、それはただのつまみ食いにしかならない。その面白さが意味する社会や文化も読み解いていきたいとも思う。

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