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[2020.10]【連載 アルゼンチンの沖縄移民史②】沖縄移民の始まり

文●月野楓子

 連載の初回を書いてから今回までの間に住む場所が変わった。たまたまのタイミングではあるが、沖縄に居を移した。
 少しずつ、「引っ越しました」の報告メールを送る中、アルゼンチンからいただいた返信に「金武(きん)町を訪れるように」とあった。金武町は、「沖縄移民の父」と言われる當山久三の出身地である。

 今回は、沖縄移民の始まりについて、書いてみたい。

ハワイへ

 當山久三は沖縄の自由民権運動を担った人物としても知られるが、かねてより海外移民事業への関心を有していた。沖縄が「琉球処分」によって日本に組み込まれ、その後も常態化する貧困や人口過多を前に、それらの問題は海外への移民によって解決の道が開かれると久三は考えた。そのために、日本本土では既に始まっていた海外への移民希望者を募り、沖縄からハワイへ最初の移民を送り出した。1899年のことである。

 後には久三自身もハワイ移民に参加し、出発に際して以下の歌を詠んでいる。「いざ行かむ 吾等の家は 五大州 誠一つの 金武世界石」。歌からは、渡航先をハワイに限定せず、世界中への移民を見据えていたことが窺える。そして、久三はそれを実践するかのようにハワイからの帰国後は移民会社の代理人となり、さらなる移民の送り出しに尽力した。

 日本本土から海外への渡航が始まったのは當山久三の送り出しより早い1868年、やはりハワイへの移民であった。明治元年であったことから、初回ハワイ移民は「元年者(がんねんもの)」と呼ばれる。政府からの許可の無い移民であり、砂糖プランテーションでの過酷な労働環境に置かれた彼らの取り扱いについて日布間(布はハワイのこと)で問題となったことから、政府は「元年者」以降、しばらく組織的な海外渡航を停止した。しかし、海外で働く需要は高まっていく。それは、人々の暮らしや制度が明治維新を経て変化していくなか、特に農業の形態や経済の構造が変わり(たとえば、税を物納から金銭で納めるようになるなど)、現金収入の少ない仕事に従事する者にとっては切実な問題であった。

 沖縄においても海外移民について論じられるようになったこの時期、地租改正(沖縄では土地整理事業)によって土地の所有権が確立されたことは大きな変化であった。物納や人頭税は廃止され、農民にも土地所有が認められた。そのため、自らの土地を手放して海外への渡航費を捻出することができるようになったが、それは同時に、耕す土地が無いため農村部を中心に労働力が余るという状況ももたらした。
 時代によって多少の違いはあるが、移民する理由は、「いかに食べていくか」という問題を抜きには語れない。沖縄から出る理由は他にも、先に移民した人々による呼び寄せや、徴兵忌避(沖縄にも施行された徴兵令から逃れるため、また、家にとって大切な後継ぎを戦争で失わないため)などが挙げられる。しかし、試みに「移民」の項目を辞書で引くと、「労働を目的に海外に移り住むこと」とあるように、最も大きな理由は働くため、金を稼ぐためである。経済が厳しい沖縄は、県民の「十人に一人」が移民したと言われるほどの「移民県」になった。

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