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[2019.11]THE PIANO ERA 2019 出演者インタビュー#6 高木正勝

文●編集部 text by LATINA

 世界中からピアニストが集う祭典ザ・ピアノエラにおいて1回目から出演を重ねる高木正勝。現在暮らす山での生活、そしてそこで活動を重ねることで浮かび上がってくる独特の音楽的詩情を語ってもらった。

── 秋が深まってきましたが現在お住まいの環境の季節の変化、そこから得られるものに関して教えていただけますでしょうか。

高木正勝 山間なので夏があっという間に終わって、ひんやりした日が続きます。ここでは一年のうち半年以上、ずっと寒いのだということにようやく気づきました。秋になって虫たちの合唱が毎日楽しいです。家の中にも紛れ込んだり。

── 『マージナリア』は計算された音楽とは違って、ライヴに近いような1回しか聴けないんじゃないかというはかなさを感じられる作品でした。 そこに自然と存在するものに縁をつけて切り取ったという意味もあるのでしょうか。

高木正勝 山で暮らしていると当たり前に気づくことですが、人間よりも他の生き物の方が圧倒的にそこここにいるのです。その事実に少しでも寄り添えれば、また違った世界を味わうことができます。

 『マージナリア』では、家の窓を開け放って、山の生き物たちと一緒に音を奏でた時間をそのまま記憶するようにしています。ひとつひとつ、生き物たちの歌はメロディーもリズムも違うのですが、全体でなにかしら音の調和を作り出そうとしているように思えます。その美しい世界のなかで、さらにピアノを弾くという行為は、時々失敗もしますが、時々は、自分が音を奏でたことで一緒に調和を生み出せたなと感じる時があります。ある季節のある時間を切り取って残せたようにも思いますが、なにより、お互いの間にある境界を曖昧にできたことに感動します。


── 日本語はオノマトペが非常に豊富な言語で、自然界の音に対して繊細な聴覚を持っている(少なくとも持っていた)と思います。現在お住まいの環境でその繊細さを認識することはありますか?

高木正勝 今、外では雨が降っていますが、雨の音を言葉に置き換えようとすると、ザーっと降っているように思いますが、聴こうとすればするほど、様々な音に気づいて、とれろれろれろれ、と降っているように聞こえてきました。

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