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[2018.02]2本のドキュメンタリー映画『苦い銭』『サファリ』から読み解く、 決して交わることのない2つの世界

文●圷 滋夫 text by SHIGEO AKUTSU

苦い銭

 近々公開されるドキュメンタリー映画『苦い銭』と『サファリ』は全く真逆の世界を描きながら、鑑賞後には頭の中でディストピア感がモヤモヤと渦巻いて何とも言えない苦い思いが残るという点で表裏一体の作品だ。またその映画的手法にも共通するものがある。まず創り手が対象に向かって積極的な働きかけをする事は無く(『サファリ』にはQ&AのAの部分が映し出されるが何かに誘導するような文脈ではない)、まるで第三者が観察をしているような視点に極めて近くカメラの存在感が薄いのだ。そして編集された映像に後からナレーションと文字による説明や、撮影時に現場で流れていた音楽以外のスコアを加える事はせずに(『苦い銭』には本編終了後に簡単な数字の説明が加えられるが)、スクリーンの中で起こっている事のみからその本質を炙り出そうとしている。

苦い銭_メイン写真XXX

 『苦い銭』は、発表する作品のほとんどが様々な国際映画祭で多数受賞をして来たドキュメンタリーの名匠ワン・ビン監督の16年の作品だ。1万8千を超す個人経営の衣料品加工工場が集まり農村出身の出稼ぎ労働者が30万人もやって来る浙江省湖州市が舞台で、その中の裁縫工場などで働きながら過酷な競争に巻き込まれる人々を次々と点描してゆく。今、世界は経済が優先され金が最も重要な存在となった時代だが、それは中国も同じ状況で貧富の差が極端に広がっている。我々が銀座辺りで目にするブランド品に身を包んだ一群や不動産を買いまくる富裕層もいれば、映画の中で描かれる貧困に喘いでいる層もいる。

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