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[2019.11]【連載】タンゴのうた 詩から見るタンゴの世界 第22回 アクアフォルテ(エッチング)

文●西村秀人 text by HIDETO NISHIMURA

この曲を初めて聞いたのはアグスティン・マガルディの歌だったと思う。何ともわびしく、悲しい曲だと思ったものだが、それはマガルディの泣き節のなせる業だったのかもしれない。この曲が史上初の社会派タンゴ、失恋ではなく社会格差を訴えたものだったことを知ったのはだいぶ後になり歌詞の内容を理解してからである。

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 この曲を作詞したのは歌手のカルロス・マランビオ・カタン。1895年生まれなので、カルロス・ガルデルと大体同世代である。出身はバイアブランカで、早くに母を亡くし、叔父に引き取られた。父も叔父もみんな軍人ばかりだったが、カルロス・マランビオは早くから音楽に興味を持ち、高校を終えた18歳の頃には友人とギターを弾きながらデュオで民謡を歌っていたという。やがてクージョ出身の大歌手サウル・サリーナスともコンビを組み、1914年にはパラグアイの首都アスンシオンやアルゼンチンの地方都市でも公演した。1915年一旦は市役所につとめはじめるが、1か月で辞め、再びアルゼンチン国内を歌って旅した。やがてタンゴが流行し始めるとタンゴ歌手となり、1923年からはビクトルに録音も開始する。その後も放浪癖は治らず、アルゼンチン国内はもとより、ウルグアイ、ペルー、チリなどで公演した。1931年に映画「ブエノスアイレスの灯」の撮影と欧州公演のためアルゼンチンを出発したフリオ・デ・カロ楽団一行に歌手として参加。デ・カロのツアー終了後も単身残り、エドゥアルド・ビアンコ楽団で歌っていた。ビアンコ楽団とイタリアのミラノ公演に行った時、やはり欧州滞在中だったギタリスト、オラシオ・ペトロッシと出会う。ペトロッシは「ちょうど今いいメロディが浮かんだ」といってカルロス・マランビオに聞かせた。それが名曲「アクアフォルテ」の、上記訳でいう「哀れなミロンガよ…」の部分だった。カルロス・マランビオは出来あがったメロディに詞を付けることを約束し、ペトロッシと出会ったキャバレーの情景を詞につづっていった。

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