[2019.04]平成のワールドミュージック ③平成11年〜平成15年

●平成11年(1999年)

◆ヌスラットの生涯を凝縮したような遺作

『ヌスラット・ファテ・アリ・ハーン/スワン・ソング』

99_ヌスラット

 97年5月4日に地元パキスタンで収録された2枚組のライヴ盤。結果的にこれが、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンのファイナル・パフォーマンスとなり遺作となった。ヌスラットは、元々はスーフィズムを広めるための音楽だったカッワーリーを独自の意識で発展させていた。この日は、前半はハーモニウムとタブラを使うオーセンティックな編成のカッワーリーを演奏し、後半になると西洋のさまざまな楽器を入れてアグレッシヴにカッワーリーを奏でている。ヌスラットの音楽家としての生涯を凝縮したような構成になっていて見事と言うほかない。中村とうようによる日本盤のライナーで「自分たちは愛についてさまざまに歌うが、それらを神への愛と解釈するか男女の愛と解釈するかは聞く人の自由だ。聞き手がイスラーム教徒だろうがキリスト教徒だろうが気にしない。人の心は同じだから」というヌスラットの言葉が紹介されている。まさに開かれた音楽なのだった。(石田昌隆)

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