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[2017.05]特集:日本人のアーティスト達による ケルト/アイリッシュ音楽のムーヴメント

文●おおしまゆたか

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 それに初めて気がついたのは2010年秋、『TOKYO IRISH GENERATION』というオムニバスがリリースされた時だった。そこで演奏されている音楽はいずれもアイルランドをはじめ、広く「ケルティック」と呼ばれるタイプの音楽だったが、どれもこれも恐しく質が高い。このまま現地へ持っていっても充分通用するだろうとぼくの耳には聞えた。しかもみな「借り物」ではない。単純にあちらの楽曲や演奏を忠実にコピーしました、というものではなかった。伝統音楽のエッセンスを身体の奥深くまで取り込み、その上で自分たちの、21世紀にこの島国に生きる人間による、同時代の人間のための音楽として放っている。そしてそういうミュージシャンが一人や二人ではなく、五人六人でもなく、数十人も集っていた。これはトップの連中であり、その背後にはこれに数倍、数十倍する若者たちがいることも明らかだった。そう、若者たちだ。30代以下の人びとだ。オムニバスのレコ発ライヴは出演者が多いために2回に分けて行われた。ぼくは2回目の方しか行けなかったが、そこでもまた驚かされた。会場にあふれんばかりの聴衆の数とその質の高さ、そしてやはり若さにである。

 その少し前からわが国でケルト系の伝統音楽やそれをベースとした音楽を聞くだけでなく、演る人たちが多数現れていることには気がついていた。前世紀末以来の世界的な「アイリッシュ・ブーム」の影響だろうと思ってもいた。しかし、従来のそれとはどうも次元が一段違ってきたという感覚が、『TOKYO IRISH GENERATION』のミュージシャンたちにはあった。単に仲間内で楽しむだけではなく、ひとつの表現手段として北部ヨーロッパの伝統音楽を選びとるという姿勢だ。そこには当然それを仕事とすることも含まれる。

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