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[2017.05]【連載 TÚ SOLO TÚ #205】現在のラテン・ポップシーンを写し出した大傑作『ウン・ベシート・マス』 メキシコ兄弟デュオ ジェシー&ジョイ

文●岡本郁生

 先月は、今年のグラミー賞で〈ベスト・ラテン・ロック・アーバン・オア・オルタナティヴ・アルバム〉を受賞したプエルトリコの女性歌手イレを取り上げたが、今月は〈ベスト・ラテン・ポップ・アルバム〉に輝いたメキシコの兄妹デュオ、ジェシー&ジョイをご紹介したい。

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 受賞作は2015年にリリースされた彼らの4枚目のアルバム『ウン・ベシート・マス』。これぞまさに、いまのラテン・ポップ! というべき大傑作アルバムである。

 まず1曲目、ちょっとレゲトン風味のアコースティックでメランコリックなナンバー「ケ・ペナ・メ・ダ」からグーッとその世界に引き込まれてしまうわけだが、この曲は、ジェシー&ジョイと、キューバ出身で世界をまたにかけて活動する歌手/コンポーザーのデセメル・ブエノとの共作。しかも、アデルやサム・スミスらとの仕事で知られるフレイザー・T・スミスをプロデューサーに迎えてのロンドン録音というのだから驚いた。いや、この曲だけではない。全13曲中ほとんどがロンドン録音であり、プロデュースには、スミスに加えて、ジェイソン・ムラーズ、メアリー・J・ブライジ、ジェイミー・カラムらを手掛けたスウェーデン人のマーティン・テレフェ(子供のころベネズエラで育ったらしい)が参加。ツボをおさえたメリハリのあるポップ・サウンドを聞かせている。そんな中でタイトル曲「ウン・ベシート・マス」はフアン・ルイス・ゲーラとのデュエットで、ドミニカ共和国での録音。ペダル・スティールをフィーチャーしたカントリー・ミュージック・テイストをベースに、ゲーラの長年の相棒であるフアン・デ・ラ・クルス“チョコラーテ”のパーカッションをプラス、バチャータを絶妙にミックスし、実に不思議な浮遊感たっぷりの音が広がっている。

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 こんな彩り豊かなサウンドもさることながら、やはり印象的なのは、楽曲の素晴らしさだろう。多くの曲はジェシー&ジョイの自作だが、中でさらに異彩を放っているのは、「3 A.M.」で歌手として共演もしているトミー・トーレスである。

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