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[2018.02]コトリンゴ 〜 新作/ピアノ/歌詞にまつわる対話

文●成田佳洋 text by YOSHIHIRO NARITA

 昨年11月に新作『雨の箱庭』をリリース、デビュー10周年を迎えたコトリンゴ。ピアニスト・シンガーソングライターとしての活動とともに、音楽を担当した映画『この世界の片隅に』では日本アカデミー賞優秀音楽賞も受賞するなど、映画やCM音楽の世界でも多くの作品を手がけ、その存在感は増す一方だ。とはいえ、デビュー当初からJポップの文脈で紹介されてきたこの音楽家を本誌で取り上げることに、意外だと感じる読者もまだ多いと思う。けれども特にここ最近の活動は、ポップな楽曲とイノセントな歌に同居するかたちで、卓越したピアノ演奏、管弦やリズムの多彩なアレンジが展開されていて、近年本誌で特集されることの多い「器楽と歌」の新しい動きとも重なるものだ。特に現代アルゼンチン音楽との共通性は興味深く、彼の地の音楽家やリスナーからコトリンゴの名を聞く機会も一度二度ではない。

 雨水がタンクに溜まるのをじっと待つように、ゆっくりと間を挟んで話す姿が印象的なインタビューだった。

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成田佳洋 新作を聴いて、冒頭の「雨あがる」でティグランと共通するものを感じました。楽曲のドライブ感、静かめの曲でも〝flow〟の感覚があって、アカ・セカ・トリオを彷彿とさせる瞬間があったり…… カルロス・アギーレなど、アルゼンチンやブラジルのアーティストのライヴ会場でお見かけしたり、ティグランとの対談記事も読んでいたので、本誌で近年多く取り上げられる南米音楽などの影響があっても不思議はないと思っていました。ただ、デビュー作から順に聴き直すうちに、それは直接的な影響云々というより、コトリンゴという音楽家の元々の個性であって、偶然シンクロしているだけなのか、これはどちらなのだろうと。そんなときに編集部から今回の記事の依頼があって……

宮本剛志(編集部) メロディーや和声に南米っぽさを感じていました。「迷子になった女の子」という曲にアントニオ・ロウレイロの影響を想像したり。

コトリンゴ 特に分析したりということはないんですけど、好きでずっと聴いているので、自然と引っ張られているのかもしれないですね。ジャズでもすこし土っぽいもの、土着の音楽と結びついているほうが好きなので。だから南米のものに惹かれるのかなって思います。

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