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[2018.04]【第11回 カンツォーネばかりがイタリアじゃない】スフィアンからザローネまで現代イタリア映画音楽事情

文● 二宮大輔

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『君の名前で僕を呼んで』
※4月27日 TOHOシネマズ シャンテ 他全国ロードショー
©Frenesy, La Cinefacture

 今年4月に日本でも公開予定のアメリカ映画『君の名前で僕を呼んで』(Call me by your name)の音楽を、神秘的な楽曲が人気のSSWスフィアン・スティーヴンスが担当したということで、大いに注目を集めている。避暑のため北イタリアに来た17才の少年が、大学教授である父の教え子の男性に出会い恋をするというあらすじで、昨年11月ロサンゼルスとニューヨークのたった四館のみの公開から始まり、瞬く間に大ヒットし、ゴールデングローブ賞に主要三部門でノミネートを果たした。受賞は逃したものの、引き続きアカデミー賞にも四部門でノミネートしている。何かと話題のこの映画、実はルカ・グゥアダニーノというイタリア人監督の作品だ。

ルカ・グァダニーノ監督

ルカ・グァダニーノ監督

 この監督、どこかで聞いた名前だと思っていたら、つい数日前に鑑賞した『胸騒ぎのシチリア』(A Bigger Splash)の監督ではないか。こちらも舞台はイタリアだけれど、主人公はフランス人なので、あまりイタリア映画という感じはしなかったが、美しいシチリアの風景と、心に問題を抱えた登場人物たちのやり取りが余韻を残す快作だった。

 気になってさらに調べてみると、このグゥアダニーノ監督、なんと『メリッサ・P~青い蕾~』の監督ではないか。17才の高校生メリッサが自らの性体験を赤裸々に綴ったイタリアのベスト・セラー小説を、2005年に映画化したものだ。公開当時、映画館に観に行ったのだが、観ているこちらが恥ずかしくなるような恋愛映画だった。そんな『メリッサ・P』から12年、監督がアメリカに行き、性や欲望という同種のテーマを貫きつつ成功を収めていたとは、ついぞ知らなかった。

 グァダニーノに限らず、外国に目を向け活動をするイタリア人監督の例は多い。名作『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレも、ここ最近の二作は英語圏の俳優をメインに撮影をしているし、2013年にアカデミー外国語映画賞を獲得した現代イタリア映画の代表的監督パオロ・ソレンティーノも、一作イタリア国内で撮影したら、次は外国で撮影するというルーティンを続けている。イタリア映画の才人たちがある意味で外国流出しているのは、経済的な理由もある。イタリアだけではもはや一本の映画を撮るのに十分な資金が集まらないのだ。

 そんな状況に伴ってイタリア映画音楽の在り方も大きく変容してきたように思う。エンニオ・モリコーネやニーノ・ロータなど、数々の名作曲家を輩出してきたイタリアだが、最近では英米のロックやポップスを組み合わせるケースも増えた。『君の名前で僕を呼んで』も、まさにその一例だと思う。

 しかしイタリア国内に面白い動きがないわけではない。例えば、日本でも公開された『Viva! 公務員』(Quo vado?)のケッコ・ザローネだ。国産映画の興行収入記録を塗り替えた本作は、彼が主演を務めた四作目の映画なのだが、四作ともに音楽を担当しているのはザローネ自身だ。というのも、そもそもは地元である南イタリアの小村カプルソで、ジャズ・ミュージシャンとして活動していたのだ。歌にギターにピアノもこなす才能を持っている。その後お笑いタレントとしてテレビに出始めたザローネは、主にモノマネを武器に大活躍するのだが、ふざけているかと思いきや、いきなり真剣に歌い出したりする。そのギャップが人気の秘密なのだろう。この路線を受け継いで、2009年に主演で映画デビュー。あまりにもエンターテイメント性が高く、映画とは言えないとの批判もあるが、笑いも取って歌も歌って映画を大ヒットさせるそのエネルギーは凄まじい。

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ケッコ・ザローネ『Viva! 公務員』の一場面

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