見出し画像

[2019.07]COLD WAR あの歌、2つの心 〜ポーランドの音楽と近代史という大河に揺れる運命的な愛

文●圷 滋夫 text by SHIGEO AKUTSU

 映画には大きく分けて3つの側面がある。それはエンタテインメントとしていかに観客を楽しませるかという娯楽性、登場人物の人生や物語の背景に横たわる問題を描いた社会性、そして映像作品としてそれらをどう表現するかという作家性だ。本作はこれら3つの要素が高いレベルで1つに融合され、深く胸を揺さぶる。

 まず本作は音楽を愛し自由を求める物静かな男と、複雑な過去を持ちながら奔放に生きる女が運命的に出会い、そして時代と戦いながら求め合った15年間を描く情熱的なラブストーリーだ。第二次大戦後の1949年、ポーランド民俗音楽のためのマズレク舞踊団が設立される。その音楽監督ヴィクトルと、後に花形シンガー/ダンサーとなるズーラはすぐに恋に落ちるが……。

 二人の愛の背景には冷戦という大戦後の激動の時代があり、ポーランドがソ連という大国の政治的意向に翻弄されたように、二人の愛の形もスターリン路線、スターリンの死、「雪どけ」等の歴史の分岐点に沿うように形を変えてゆく。その背景の詳細は映画で描かれる事はないが、歴史が生んだ黒い影が常に二人の行く先々に忍び寄るのを見ると、社会とそのシステムによって抑圧される個人の関係性について思わずにはいられない。

ここから先は

1,907字 / 4画像
このマガジンを購読すると、世界の音楽情報誌「ラティーナ」が新たに発信する特集記事や連載記事に全てアクセスできます。「ラティーナ」の過去のアーカイブにもアクセス可能です。現在、2017年から2020年までの3.5年分のアーカイブのアップが完了しています。

「みんな違って、みんないい!」広い世界の多様な音楽を紹介してきた世界の音楽情報誌「ラティーナ」がweb版に生まれ変わります。 あなたの生活…