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[2019.06]ブラジルフィールドワーク #13 我々はブラジル原初の民

文・写真●下郷さとみ text & photos by SATOMI SHIMOGO

同時代人として生きる

「違和感がある」。そんなコメントをもらって考え込んでしまった。毎年1ヶ月かけて訪問するアマゾン先住民族の村のようすを日本の知人に語った時のことだ。

 たいていの村には寺子屋のような学校があり、教員の資格を得た村の若者を先生役に民族言語とポルトガル語の両方を使った授業が行われている。外の社会との物や情報や人の行き来は年々進んで、工業的な製品も徐々に入って来るようになった。パソコンで文書を作成し、ネットのある場所まで出かけて情報の収集や発信を行う若い世代のリーダーも多い。大学進学を果たす若者も増えている。

 そんな村のようすに「びっくり」ならわかるけれど「違和感」って何だろうな。先住民族にイメージする素朴さや純粋さが失われることへの拒否感だろうか。私が2015年に初めて彼らを訪ねた時、自分自身にびっくりしたのは逆に違和感のなさだった。「そうか、彼らも同時代人なんだ」と妙に納得した。

 生きる環境や生活様式はもちろん随分違っているけれど、今という同じ時代に、同じ地球の上で、この世界と関わりながら生きている。アマゾン地域の先住民族が「現代文明」と出会ってから、わずか60年余り。いわば石器時代から数千年の時を早足で駆け抜けて今、伝統文化を保持しながらもテクノロジーを我が物としている。そんな彼らの柔軟な姿に触れて素直に、すごいな、と思った。

 ブラジル社会の中で圧倒的マイノリティとして苦しめられている先住民族が、生存への権利をかけて闘うために必要な「武器」が知識と知恵と情報だ。時代への彼らの柔軟な適応能力は、それだけ社会の中で彼らが置かれている状況が厳しいことの表れでもある。4月は彼らが「先住民族の4月(Abril indígena)」と呼ぶムーブメントの月。新たな武器を駆使して繰り広げられた彼らの運動を少しだけ紹介したい。


15年目の「自由の大地キャンプ」

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