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[2020.04]映画レビュー:人生で最も“厄介な関係”にハマる。

この春観るべき“親と子の関係”を描いた3本の傑作映画。
『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』『コロンバス』『在りし日の歌』

文●圷 滋夫 text by SHIGEO AKUTSU

 全ての人間には必ず親が存在し、その関係は友人や恋人、夫婦とは違い、血縁という逃れられない繋がりによって死ぬまで付きまとう。たとえ断絶をして物理的に遠ざかったとしても、心の鎖を断ち切る事は難しい。親子関係が良好な人には、〝厄介な関係〟と言われても何の事か分からないだろうが、世間には様々な出来事や感情によって関係が壊れてしまった親子が沢山いる。そこには言葉では言い表せない複雑な想いが絡み合い、多くの物語が生まれるのだ。そんな親子関係を軸に、独特の空気感を持った3本の映画を紹介しよう。

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 『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』は、美しき孤高の天才グザヴィエ・ドラン監督の新作(最新作が秋に公開予定)だ。物語はテレビの人気俳優ジョンの死から始まる。そして彼と5年間で100通以上の文通をしていた少年ルパートが、11年後に回想するという形でジョンの死にまつわる謎が語られる。

 そこにはこれ迄のドラン作品同様、同性愛者の苦悩と悲哀、そして母との愛憎が描かれる。そして愛を求めても解り合えない深い孤独と寂寞感が溢れ、ドラン本人もこれ迄の集大成だと語っている。しかし本作の2組の母子関係はさらにその先が描かれており、集大成であると同時に新境地とも言えるだろう。またドランにとって初の英語作品という事が影響したのか、作品全体から発せられるエネルギーが、過去作では内省的で内へ内へと向かっていたのが、外へとベクトルを変えてより多くの人に向けられているのを感じた。

 それは取材で回想するルパートが、社会派ジャーナリストのインタビュアーを説き伏せた場面に強く表れている。ルパートは自分の問題が「先進国の不幸な出来事」として個人の贅沢な悩みに矮小化された事に反発し、狭量な体質のテレビ/映画業界、さらに無知や偏見、差別に満ちた社会の問題へと意識を広げたのだ。インタビュー形式という外枠を設けて第三者の視点をプラスし、外への意識を導き出した構成は見事に成功したと言えるだろう。そしてそんな外へと向かう意識は、作品全体を包むトーンの中に、明るく爽やかな色が混ざっている事にも繋がったはずだ。もちろん撮影も編集も衣装も美術も音楽も、全てが細部に渡って高い美意識によって見事にコントロールされているのは今迄通りで、その表現が鮮烈に冴え渡った新たな傑作だ。

 最後に、資料にはドランが8歳の頃にレオナルド・ディカプリオに手紙を書いたのが本作の出発点と書かれているが、ある場面での『マイ・プライベート・アイダホ』への明確なオマージュと、挿入歌で「スタンド・バイ・ミー」を使っている事を考えれば、本作はリヴァー・フェニックスに捧げられているのではないだろうか。

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