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[2021.10]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い⑪】 白黒写真? 黒白写真? ジョビンとせめぎあった歌詞 — シコ・ブアルキ&アントニオ・カルロス・ジョビン作 《Retrato em branco e preto》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

お知らせ●中村安志氏の執筆による好評連載「アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い」についても、今後素晴らしい記事が続きますが、今回も一旦、この連載「シコ・ブアルキの作品との出会い」の方を掲載しています。今後も、何回かずつ交互に掲載して行きます。両連載とも、まだまだ凄い話が続きます。乞うご期待!!!(編集部)
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 今回ご紹介する歌は、とても悲しい気持ちに包まれた主人公が一人でずっと語り続け、心の痛みをじわじわと描いていく、ジョビンとの共作です。亡くなった家族のことを思い浮かべているととらえることもできますし、別れた恋人などに対するある種の恨み言として読み取ることも可能。エリス・レジーナとジョビンがロサンジェルスで録音し、目玉となる「3月の水」で大ヒットしたアルバムの中で、エリスが非常に重い口調で独唱しているのが印象的です。

 この曲は、最初、ジョビンが1965年にメロディーだけを作り上げ、タイトルは「Zingaro」となっていました(定住地を持たず、移動生活をするロマ族を指すイタリア語)。この時期ブラジル内外でのヒットに恵まれ、海外との旅を頻繁に繰り返していたジョビンが、あちこちを常に放浪しているかのごとき自身の状況を指し、こう名付けたとも言われていますが、後年ジョビンが語ったところでは、バイオリン弾きが楽器を質に入れ、仕事もない状態になっているのを描いているとのことです。
 68年になって、ジョビンは、この曲に歌詞をつけてくれないかと、シコ・ブアルキに依頼。完成後のタイトルが、「Retrato em branco e preto(白黒の肖像写真)となりました。面白いことに、後年、名手ジョアン・ジルベルトが76年の有名なアルバム『Amoroso』に収録した同曲は、こうしてできあがった歌詞付きで歌っているものの、表題が当初のZingaroのままになっています。

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