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[2018.10]島々百景 #32 ハワイ諸島

文と写真:宮沢和史

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 今から17年前、NHKの単発のドキュメンタリー番組『はるかなる音楽の道 海を渡ったサウダーヂ』のナヴィゲーター役を務めさせていただことがあった。大航海時代にポルトガルが入植した国々、ブラジル、インドネシアのジャワ島、ハワイのオワフ島を続けて旅した事があった。かつて、ポルトガルが多くの有形無形のものをそれぞれの地域に持ち込み、同じく様々なものを持ち帰ることによって、お互いの文化に多大なる影響を与え、受け合ったわけだが、なかでもギターを持ち込んだことにより、それぞれの地域に独自の楽器、音楽をもたらしたという歴史を辿ろう、という内容であった。歴史というものを川に例えるなら、ちょっとしたきっかけや、偶然、神様のいたずらで川筋が変化するものであり、 ヨーロッパの植民地争奪戦や、第二次世界大戦によって上記の3国の文化は大いに揺れ動いた。総括して集約してみれば、貿易で儲けたい、その利益を王国に集約させたい、国を拡大し資源と安い労働力を得たかった……という歴史に他ならない。結局は人間の欲望が多くの人に汗と涙と血を流させ、大きな犠牲を払ったにも関わらず、歴史に永久に消えることのない汚点を世界のあちこちにただ残しただけだと言えるが、この3国においては、多くの負の歴史とともに、宝石のように美しい音楽が生まれ、人々の心を魅了し、それぞれの地域を代表する文化の象徴になっており、今なお、人々の誇りになっている事は大変素晴らしいことだと思う。誤解を恐れずに言えば、たくさんの傷を負ったからこそ輝く宝物なのだと言えるだろうし、歴史のいたずらがなければ生まれ得なかったものだったかもしれない。今年に入り、NHKの方から連絡があり、この番組の評判が良かったそうで、17年経ったにも関わらず再放送することになったというお知らせをいただいた。あらためて観直してみると自分自身の見解、発言の甘さに赤面してしまうが、そこさえ大目に見ていただければ、番組の骨格、流れ、取材の入り込み方、は大変興味深く、今なお新鮮で面白い。なかでも、ハワイにおけるフラやウクレレの歴史、物語は知識が薄かった当時、大変勉強になった。ハワイ王朝がアメリカに飲み込まれていく過程で最後の王リリウオカラニが作った男女のお別れの歌「アロハ オエ」は世界で最も有名なハワイアンソングであるにも関わらず、気安い場で歌われる事はまず無い。なぜならば祖国を失ってしまったあの時代とこの歌の歌詞が重なって感じてしまうから。というくだりは今観ても胸を打たれる。歌というものは時には身近で柔らかいものであり、時には人々のエネルギーを倍増させひとつにさせるものであったり、時には魂を鎮める鎮魂であったりと、人間にとってかけがえのないものであることをあらためて教えられる。

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