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[2017.12]【連載 それでもセーヌは流れる 107】ハッシュタグ『豚を告発せよ』

文●向風三郎

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#豚を告発せよ

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10月13日、女性ジャーナリスト、サンドラ・ミュレールのツィッターで始まった「ハッシュタグ豚を告発せよ」

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SNSを飛び出してデモ集会へ。10月29日、パリ・レピュブリック広場、2500人が集結

 2017年10月5日、米ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された告発記事を皮切りに、世界映画界最強と言われたプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが世界中の女性たちから断罪攻撃される標的となって転落していく。ワインスタインのセクハラ・性暴力・レイプの被害者たる世界的な女優たちと映画関係者たちが次々と実名で告訴した。最も華麗な巨大巨額産業にあって他言無用が鉄則であった性スキャンダルは堰を切って流れ出し、怒れる女性たちの声は世界のSNS上で大洪水の勢いとなった。

 この10月、ワインスタイン事件の前と後で、世界は確実に変わった。「私も被害者」=#〝MeToo〟を合言葉に、世界中の名もない無数の女性たちが、セクハラ/性暴力の被害体験を名前を出して告白していった。フランス語圏ではもう一つ過激なハッシュタグ〝#BalanceTonPorc〟(#豚を告発せよ)が設けられ、個人名や社名まで公開する大々的な告発運動となっていった。

 Porc 《俗》 : 不潔な奴、大食漢、好色漢、豚野郎
        (スタンダード仏和辞典)

 発端となったのはテレビ業界メディアの女性ジャーナリスト、サンドラ・ミュレールのツイッター上での10月13日の書き込みで、自身が某テレビ局のディレクターから発せられた「きみはでかい乳で俺好みの女だ、一晩中イカせてやるぜ」というフレーズをそのまま写し、その後ろに言った本人の名前を書き添えた。その上で「あなたも豚の名前をバラすのよ!(Toi aussi, balance ton porc!)」と訴えたのだ。それはそのままハッシュタグとなり、24時間後、#BalanceTonPorc”(#豚を告発せよ)は無名の女性たちの痛みと怒りに満ちた告白と告発で溢れかえることになる。それは何十年もの間職場で「普通に」まかり通っていたセクハラの実態であり、男性原理社会からこれまで笑って済まされてきたことであり、女性たちが沈黙を余儀なくされてきたことだった。職場でのセクハラを告発/告訴した女性の95%が職を失っているという数字がある。職も体面も失いたくない、性的恥辱の上に社会的恥辱を味わいたくない、だから女性たちは沈黙してきた。その沈黙はこの10月全フランス的に破られ、女性たちは「恥はサイドを変えた(今や男性が恥をかく側)」と高らかに宣言した。

 幾多の告発証言者の中に、プログレ・シャンソン歌手のカトリーヌ・リベロ(1941〜)もいた。「私は1962年に強姦され、そのことを黙っていた。もしも私がそのことを言えば、その男は私を法廷に訴えることができた。当時彼は日刊紙の三文記者に過ぎなかった。私は60歳になるまで〝強姦〟という言葉を使わなかった。私にとっては彼の死の後も嫌悪、恥辱、憎悪は消えず、この先もずっと残るだろう」とフェイスブック上で吐露した。その相手とはフランスのラジオとテレビで文化教養番組の名司会者と言われたジャック・シャンセル(1928〜2014)だった。

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カトリーヌ・リベロ

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ジャック・シャンセル(1928-2014) ラジオジャーナリスト時代

 しかしその同じ時期に、このセクハラ告発の大きな動きに水を差すように、(私の最も信頼する情報誌のひとつである)レ・ザンロキュプティーブル誌がベルトラン・カンタを表紙にして、新アルバムのプロモーション的インタビュー入り6ページ記事を掲載した。たぶんそれはワインスタイン事件の前に準備されていたものであろう、という情状酌量の余地はある(掲載号の発行は10月11日)。しかしこの表紙掲載はフェミニスト諸団体のみならず、同業メディア誌紙、アーティストら、文化人ら、さらに政府・男女均等担当大臣マルレーヌ・シアパに至るまでの大々的な抗議に晒されることになる。

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