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[2019.05]奈良タンゴ祭大和郡山から世界へ発信する「アルゼンチンタンゴ」

文●清川宏樹

text by HIROKI KIYOKAWA

 この数年でじわじわと、しかし確実に知名度の向上しつつあるアルゼンチン音楽。その陰には、素晴らしい音楽を発信し続けるアーティストの存在はもちろん、CDの発売やアーティストの招聘、音楽にまつわる数多くの執筆など、アルゼンチン音楽を愛する多くの人たちの惜しみない努力がある事は言うまでもない。特にコンテンポラリー・フォルクローレについては一つのトレンドを形成することに成功し、現代ポピュラー音楽の中での地位を確立したように見える。一方、アルゼンチンタンゴに関しては過去のタンゴブーム以来一定数のファンの方々により支えられてはいるものの、新たなリスナーの獲得はいまだ大きな課題だと言えよう。

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ジャノタンゴ ©中島純治

 もちろんタンゴに魅了され、その音楽の力を伝えるべく活動を続ける人々は日本中にいる。けれども規模の大きなイベントを開催するとなると、やはり過去の集客実績のある東京をはじめとする一定の地域に集中してしまう事実がある。そんな中2015年1月、なんと関西は奈良・大和郡山の地で、タンゴに特化した大型イベント、その名も『奈良タンゴ祭』が開催されるという嬉しい事件が起きた。さらにそれは1回に終わらずシリーズとなり、本年5月18日には『第3回 奈良タンゴ祭』が開かれるというのだ。

 この驚くべきイベント発起の旗振り役となったのは、日本を代表するバンドネオン奏者である北村聡氏の父、北村寛氏だ。奈良タンゴ祭を企画する以前には「きたむら・プロジェクト」として北村聡氏のデュオ・コンサートシリーズを企画・開催し、中島ノブユキ氏や鈴木大介氏らを招聘した実績を持つが、まさかラティーナ主催の『東京タンゴ祭』に次ぐ「タンゴフェス」を一から作り上げ、そして今なおシリーズとして開催を続けているとは……恐れ入るばかりである。会場は第1回から第3回までいずれもDMG MORIやまと郡山城ホール・大ホール。もしかするとあまり馴染みがないかもしれない大和郡山市であるが、大阪・京都の双方からアクセスは良い。大和郡山城跡を擁する風光明媚な街並みにマッチする、白壁と瓦屋根の外観を持つホールは音響も良く、古都への小旅行と素晴らしい音楽体験とを、1日でともに楽しむことができる。

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アストロリコと亮&葉月 ©中島純治

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