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【連載 それでもセーヌは流れる 110】あるフランスの死

文●向風三郎

 1月7日、フランス・ギャルが70歳で亡くなった。前月のジョニー・アリデイ同様、死因はガンだった。最初の乳ガン発症は1993年のことで、夫で音楽パートナーであったミッシェル・ベルジェの死の1年後だったが、当時ガン発病のことは公表されなかった。だから一般の人々は彼女のガン闘病をその死後に知らされたということになる。1993年の治療で切らなかったのは本人の希望だったという。2015年に再発。2017年12月9日、ジョニー・アリデイの葬儀に「病気療養中のため欠席」の報道から、フランス・ギャルの健康状態を危ぶむ噂が立つ。12月19日、ヌイイ市のアメリカン・ホスピタルに入院。ギャル側の広報担当が「肺感染症治療のためで本人はいたって元気」と発表。年が明け1月7日、同じ広報が「再発ガンにより死亡」の公式発表。

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 フランス・ギャルに関しては本誌2009年8月号に「人形から黒人女に至るまでのフランス史」と題する4ページ記事を書いた。その人となりに関してはかなりコンプリートな記事だったと自負しているし、それに今から補足することはほとんどない。と言うのは音楽アーティストとしてのフランス・ギャルはすでに1997年に引退していたし、2009年の記事から今日まで音楽雑誌が報じるべき変化は何もなかった。その死を除いては。

 だが私は2009年にはまるでわからなかったのだ。このフランスの死がどれほど大きな事件になるかということが。12月にフランス全土がジョニー・アリデイの死に泣いたのとは異なったディメンションで、あるフランスはこのフランスの死を泣いた。私は悲しかった。ジョニーの死よりもずっと。私にとってそれまでこの歌手は「歌手」という職業人だった。作詞作曲をする音楽クリエーターではなく、優れた歌唱力で歌を表現する音楽パフォーマーでもなく、歌を確かにその言葉で伝える「歌手」であった。ミッシェル・ベルジェという稀代の作詞作曲家の作品を歌という形にするプロだった。だから公私のライバルであった音楽クリエーターのヴェロニク・サンソンよりも、ランクが下のように見ていたはずであり、私のレコード棚に全種揃っているサンソンのアルバムは堂々としているが、同じように全種持っているギャルのアルバムは人に見られるのが憚られるような、そんな違いがあった。

 だが、突然の死で私たちが思い知ったこの不在の大きさは一体何なのか。

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