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[2018.10]タンゴダンス世界選手権2018レポート 今年の選手権は海外勢が大活躍!

文●本田 健治 / 写真●本田 健治 & ディアナ・アツミ text by KENJI HONDA / photos by KENJI HONDA & DIANA ATSUMI

市最大のイベントのひとつに成長

 タンゴダンス世界選手権は、2003年に始まった時と比べると、16回目の今となっては凄い成長ぶりで、途中で現在のマクリ大統領が2007年に市長になったとき以来、かなり大型イベントとして市民に支持されるようになっている。スタッフの数も桁違い、決勝の会場も大型ステージを配置しても7千人入るルナパークになって久しい。しかし、政府のイベントは基本的に入場料は無料、運営は簡単ではないはずなのに、フランス並みの文化国家を目指すこの国のスタッフの努力には頭が下がる。

 今年は今話題のペソ急落を滞在中にも実感してきたが、逆に海外勢にとってはすべてが有利。市の発表によると、今年の選手権には、アルゼンチン国内外の2000人を超える参加者が集まった。

 今年はアジア選手権のような海外での選手権の優勝者たちに加えて、このブエノスアイレス市内40ヶ所で行われた予選から参加したカップルの合計が700組を超えたという。参加国もコロンビア、ロシア、イタリア、パラグアイ、ウルグアイ、チリ、スペイン、オランダ、インドネシア、フィリピン、台湾、日本、アメリカ、ブラジルと広がった。世界選手権の準決勝は、ボカ地区の古い発電所を改造して作った〝ウシナ・デル・アルテ(文化の発電所)〟で行われる。このウシナのある場所は、昔は相当ヤバい地域だった。すぐ近くに、あそこに入ったら殺されても、入った方が悪いと言われるような危険なスラム街があった。しかし、世界中、そんな危ないところには必ず、文化人やマスコミ人たちが出入りするスポットがあるもの。ウシナの場合は、現在ではスラムも完全撤去され見違えるようになった。ウシナのすぐ向かいに「オブレーロ」というレストランがあるが、ここはもともとボカ・ジュニアーズの熱狂的なファンや文化人たちの集う店で、マラドーナや「島唄」をヒットさせたアルフレッド・カセーロもたまり場にしていたし、ボカの会長を十年以上も務めていた現大統領のマクリだって屯していたのかも知れない。アルゼンチンの郷土料理ロクロや、タマル、肉、魚などがメニューにあって、夜中まで歌って騒げる店だった。実はここに集っていた当時の若い文化人たちが、向かいに聳える、当時は廃墟のようになっていたその古い発電所を「これを自由に使えたら....」と夢見ていたところ。彼らがやがて市や国の政治に入り込んできて夢を実現させたのだ。ただし、現在の「オブレーロ」は全くその機能は果たしていない。

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