[2018.10]特集:音楽とラジオとエッセイと 〜サッカーという音楽

文●今福龍太

 ブラジルにおける「サッカー」(フチボル)という一つの宇宙が、数多くの音楽家たちのインスピレーションの源泉になってきたことは、しばしば語られてきた。けれど、ブラジルではサッカーが音楽のテーマになってきた、という言い方はあまりにも表面的な紋切り型というべきだろう。ブラジルでは、人は誰でも、サッカーという揺籃のなかの赤子として生まれ、ジンガのリズムに揺れながらいつのまにか身体にサッカーの律動を宿し、ボールとともに機知あるサンバのステップを踏みはじめる。だから、サッカーはそこでは民衆の日常の身体美学かつ倫理学となって人々の精神を深いところで律している。音楽は、その精神の深みから、自然に、必然的にあふれ出すものにほかならない。

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