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[2021.10]【太平洋諸島のグルーヴィーなサウンドスケープ⑮】 ローカルとグローバルの結節点―幸せの国・ヴァヌアツのストリング・バンド―

文●小西 潤子(沖縄県立芸術大学教授)

 日本語で「バンド」と聞いたら、まずロックバンドをイメージするでしょうか。他にも、ジャズバンド、ハワイアンバンド、ブラスバンドなどがありますよね。ロックバンド、ジャズバンド、ハワイアンバンドは、音楽ジャンル名+バンド。それに対して、ブラスバンドは、編成楽器+バンドからなります。
 「ストリング・バンド string band」も、編成楽器+バンド。ストリングは、弦楽器のことですが、バンドとセットになると西洋クラシックの弦楽四重奏などは指しません。19~20世紀初頭の北アメリカでストリング・バンドといえば、フィドル、バンジョー、ギター、ベースなどの編成で、民俗音楽を演奏する楽団のことでした。大型の楽器が手に入りにくかった時代、ストリング・バンドのベースには、しばしば代用品が使われました。北アメリカでは、「ワッシュタブ・バス washtub bass」の名の通り、金属製のたらいに弦の振動を共鳴させていました。

Washtub Bass

 オーストラリアでは、たらいの代わりに、茶箱などを共鳴部とした「ブッシュ・バス bush bass(未開拓地のベース)」が知られています。今回の舞台となるヴァヌアツのストリング・バンドの基本的編成は、ギター、ウクレレ、ブッシュ・バスで、適宜打楽器などが加わります。ブッシュ・バスは、音高を調整するために棹が可動します。(写真1)

写真1 ジュノ族のブッシュ・バスとストリング・バンド

写真1 ジュノ族のブッシュ・バスとストリング・バンド
 (於:エスピリトゥ・サント Espiritu Santo 島、ヴァヌアツ
  2012年3月1日 撮影:小西潤子)

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