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[2020.05]ブラジルフィールドワーク #24 ファヴェーラの人々の「ぶれない軸」 新型コロナ・パンデミックの世界で

文●下郷さとみ text by SATOMI SHIMOGO

写真●コズミ・フェリップセン photos by COSME FELIPPSEN

 連載前回でカーニヴァルのことを書いたのが遠い昔のことのように思えてくる。あれから世界は一変してしまった。ブラジルで初めて公式に新型コロナウィルス感染者が確認されたのが、カーニヴァル終了翌日の2月26日。イタリア旅行から帰国したばかりのサンパウロに住む61歳の男性だった。2ヶ月後のいま、全国の感染者は4万3079人、死者2741人にまで達している(4・21現在)。

「家にこもる」を選んだファヴェーラ

 ファヴェーラは、いわゆる「3密」が凝縮したような場所だ。断水が頻繁に起きて手を洗う水すら事欠く所も少なくない。感染爆発がいつ起きてもおかしくない条件が揃った場所にも関わらず、リオデジャネイロのファヴェーラでは今はまだぎりぎりの所で押さえ込むことができている。それはひとえに住民たちが必死で取り組む感染予防活動の成果にほかならない。ファヴェーラの友人たちがSNSで日々発信することを私は日本から見つめながら、「やっぱり、あなたたちはすごい!」と胸を熱くしている。

 3月20日にリオ州政府は緊急事態宣言を発令して、市民に対して外出の自粛要請を行った。いっぽう市内の多くのファヴェーラでは、その数日前から人々が自発的に家にこもり始めていた。緊急事態宣言後も外出は禁止ではないし、もちろん罰則もない(憲法で「往来の自由」が保障されているので現在の法体系では禁止できない)。ファヴェーラでは非正規の不安定な仕事に就く人が大部分だから、「家にこもる」は「収入が途絶える」を意味する。それでも彼らは自分たちの意志でそれを選んだ。

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飢餓救済NGO「Ação da Cidadania」と市内各地のファヴェーラが協働で救援物資を集めている。NGOの駐車場が物資の集積場に。

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