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[2017.05]島々百景 #15 知床半島

文と写真:宮沢和史

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 道東の玄関口である女満別空港で降り、そこから一時間ほど東に車を走らせると斜里町という町に着く。国後島と並行するような形で北東に伸びる知床半島を縦に半分に分けた左側(西側)ほぼ半分がその斜里町で、右側(東側)は羅臼町。半島の中央には羅臼岳や遠音別岳、海別岳などが連山として並び、半島の一番隆起している突端のラインが左右の町の境界線になっている。その知床半島の先端部分(面積にして半分強くらい)がご存知〝世界自然遺産〟に登録されているエリアである。(斜里町側の全域と羅臼側の上半分程度のおよそ5㎞以内の海域も含まれる)

 知床半島の先端半分強の部分がなぜ世界遺産に指定されたかというのは行ってみて、なるほどと思った。まず、道路だが羅臼側の海岸線の沿って半島の途中まで走る87号線、斜里側の海から1〜3㎞内陸に入ったところを10㎞ほど北に伸びる93号線、半島を横断し、斜里町と羅臼町を結ぶ334号線の3本しかない。そう、人間が大自然の核心部に易々と入ることができないのだ。従って、知床半島世界自然遺産登録地は人間不在の中で自然界本来の生態系が奇跡的にいまだに営まれている日本最大にして最後の秘境なのだ。

 ここに住む動物や植物を調べてみるとその多様性に驚かされる。一般的に有名なのは、ヒグマ、エゾシカ、オジロワシ、シマフクロウ、なんかが思いつくところだが、動物(哺乳類、両生類、爬虫類、鳥類、魚類)がなんと579種類、昆虫2500種以上、植物も855種以上確認しているという。北のガラパゴスとでも言いたくなる数字だ。地殻変動で太平洋側から押される形で隆起し、その後の火山活動でさらに隆起した地形はごく一部の平地を除けば高低差が非常に激しく、植物にとってはそれぞれの高低等の環境の好みによって棲み分けられるだけのキャパシティーがあり、皆思い思いの場所に生息することができる。知床半島の羅臼側と国後島の間の海域は最大2000mもの深さがあり、深海魚から浅瀬を好むヒラメなど多種多様な魚種を誇る。陸地は溶岩の岩盤で出来ている場所が多く、起伏は激しいため、動物にとってはある種過酷であるように思える条件の中で、なぜこれだけ皆が生き生きと共存できているのだろう……。その謎を解く鍵はどうやら知床から遥か遥か遠くの地にあるようだ。

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