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[2018.08]【連載 TÚ SOLO TÚ #220】キューバから自由の国、米国へと亡命してきた 才能溢れる音楽家、アルトゥーロ・サンドバル

文●岡本郁生

「キューバの貧困の中に生まれ、政府によって抑圧され、彼はその才能を世界と共有するためにすべてを危険にさらしました。ここ数十年間、この素晴らしいトランペッター/ピアニスト/コンポーザーは、世界中の観客たちを刺激し続け、若い世代の偉大な演奏家たちを目覚めさせてきたのです。彼は最高の演奏家であり続けています」

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 2013年、当時のオバマ大統領は、「大統領自由勲章(Presidencial Medal of Freedom)」をアルトゥーロ・サンドバルに贈ったとき、彼をこう紹介したという。

 この勲章は第二次世界大戦中の1945年にハリー・S・トルーマン大統領によって制定されたもので、受章対象者は「米国の国益や安全、または世界平和の推進、文化活動、その他の公的・個人的活動に対して特別の賞賛に値する努力や貢献を行った個人」。授章式は米国の独立記念日である7月4日の前後に行われている。

 その後、オバマ政権下で米国とキューバとの関係が一気に改善したことを考えると実に興味深いが、13年時点でのこのコメントはまさに、国交断絶以来の、米国による典型的なキューバ観を表したものだといえよう。

 そしてアルトゥーロ・サンドバルは、そのイメージ、つまり、自由のない独裁国家であるキューバから自由の国=米国へと亡命してきた才能あふれる音楽家、という存在そのものだったのである。

 1949年11月6日、キューバの首都ハバナ近郊のアルテミサに生まれたサンドバルは、12歳からクラシック音楽のトランペットを学び始めたが、その後、すぐにジャズに興味を抱くようになっていったという。年代を考えてみると、12歳ということは革命直後の61年。ちょうど米国との国交が断絶されたころであり、まだまだ文化的には米国との相互関係の名残が濃厚に漂っていたころではないだろうか。

 ラテン音楽の拠点として次々とヒットを生み出していた50年代までのキューバだったが、革命によって様相は一変。60年代になると、革命精神を高揚させるようなヌエバ・トローバや、田舎の農民たちによる伝統的なグァヒーラが大きな比重を占めるようになったと、一般的にはいわれている。しかし、それまで米国のジャズに親しんでいた都会の音楽家たちは、その嗜好/指向をそう簡単には捨てられなかったのではないか?

 実際、なかなか表には出てこなかったものの、60年代のキューバでは、かなりジャズ的な音楽も演奏されていたようだ。ただし名前は〝ジャズ〟ではなく〝ムシカ・モデルナ〟つまり〝モダンな音楽〟という身も蓋もない(笑)名称であることが多いようだが、相当にアヴァンギャルドな試行錯誤も繰り返されていたという。

 トランペットを始めてジャズに興味を持つようになったサンドバルは15歳で国立の音楽学校に入学、ロシア人のトランペット奏者に師事した。そしておそらく60年代末ごろに、オルケスタ・クバーナ・デ・ムシカ・モデルナというグループの結成に参加。これが73年にイラケレとなり、世界中のジャズ・フェスで大きな話題を巻き起こすことになる。

 たしかにイラケレの登場は衝撃的だった。それはおそらく、当時世界から隔絶されていたキューバから出てきた、それもジャズ・バンドだった、という部分が大きかったはずだ。

 この爆発的な評判のおかげで世界中をツアーしてまわるようになった彼は、77年、アイドルだったディジー・ガレスピーと出会う。以来、ガレスピーはサンドバルを気に入って、ヨーロッパやキューバなどさまざまなライヴで共演。自らが率いていたユナイテッド・ネーション・オーケストラにサンドバルを迎えたこともあった。その後、81年にイラケレを脱退すると自己の楽団を結成、レコーディングやキューバ国内のツアーを行うようになっていた彼は、キューバ政府からの許可もあってBBC交響楽団やレニングラード交響楽団とも共演。比較的自由に演奏活動を行えるような境遇にあったといえるだろう。

 そして、ついにそのときが来た。

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