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[2022.4] 【島々百景 第70回】 名護(沖縄県)

文と写真●宮沢和史

 日本全国の民謡と呼ばれる歌の総数が何曲なのかは知らないが、そのうちのおよそ半数が沖縄民謡であるというから驚きだ。沖縄民謡と一口で言っても、それぞれの島にはそれぞれの歌があるわけだし、神との交信のための神歌や五穀豊穣を祈願する時や、収穫時に神からの豊かなる恵みに感謝する芸能であるウスデークといった祭事に歌われる歌、舞踊曲や芝居曲、わらべ歌、そういった“民衆の歌”を含めるととても半数ではきかないだろう。
 国内で今も民謡が盛んな地域は少なくない。しかし、新しい歌、“新唄” が生まれ更新されているわけではなく、ほとんどの場合伝統を守り歌い継いでいる現状を見ると、次から次へと新しい島の歌が生まれている沖縄圏の民謡は、今後もその時代その時代の世相を反映する生きた民歌であり続けていくことだろう。
 便宜上僕らは “民謡” と言っていはいるが、現場では “ウタ”、“シマウタ” と呼ばれている場合が多い。シマウタという言い方も元々は琉球弧の奄美大島において、それぞれの地域に伝わる歌を「他所のシマとは違う」ことを強調しようとする意味を含んだ呼び名であるといえよう。そうしたものが沖縄に伝播し使われるようになった言葉が島唄であり、古くからの呼び名ではない。シンプルにウタであるのだから、その題材が多いのも頷けるわけで、上に記したものの他にも、恋の歌である情け歌、教訓歌、労働歌、シマ褒め歌、風刺歌、口説きもの、などなど、歌で状況を把握し、歌で物事を記録し、歌でそれを伝えようとする体質というか文化は南西諸島、琉球圏の大きな特徴ではないだろうか。

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