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[2017.05]【連載 それでもセーヌは流れる 102】マッシリア・サウンド・システムが映画になった

文●向風三郎

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 21年間運営し続けてきた会社を閉じることにした。後半の10年間は利益が出なくても続けることにやり甲斐を感じていた仕事だったけれど、体が続かなくなったので仕方がない。おまけにフランスはその間に随分変わった。私の会社はシラク、サルコジ、オランドと3人の大統領の時代を経てきたのだが、政治が数字や規模がどんどん小さくなっていく音楽産業を援助救済することなどなく、多くの同業の人たちが会社や職を失ってきた。宿命的に私たちの産業は首都パリの中央政治に依存的であるし、首都に固まったメジャー会社、あるいはFNACのような大規模流通網の本部といったものの動向に左右されてきた。メディアや音楽FMも同じようにパリに集中している。それは多くの産業多くの仕事に共通していることだが、私たちの現在と将来に関わることがすべてパリの少人数の人たちによって決定されているような隷属感はことあるごとに感じる。

 2017年4月、フランスは大統領選挙戦の真っ最中であり、この号が出る頃は第一次投票が行われている。毎回問題にされる棄権率は、今回も逆説的に当落のカギを握るとされていて、棄権が多ければ多いほど極右候補(FNマリーヌ・ル・ペン)に有利になる。2012年は誰かを選ぶというよりはサルコジを再選させないための選挙だった。幸運にも当選したオランドは5年間さしたる成果もなく支持率を史上最低に下げた状態でその座を去る。保守5年と左派5年の10年で何も変わらなかったのを見た人々は誰に投票できるか。これは政治のレベルではなく、すべて「パリの少数の人々」に決められているのではないか、という議会民主主義限界論が投票意欲を挫く。待て待て、すべてを決めているのは「フランス人」ですらなく、EUテクノクラートであり、そこから離脱しない限り自国のことを自国で決める権利を奪還できないとポピュリスト極右は保守&左派失望者たちを煽動する。希望のない人々は棄権し、希望をつなぎたい人々は極右に投票する。外国人ながら一市民たる私はそれを本当に恐れている。

 4月5日、マッシリア・サウンド・システムをめぐる長編ドキュメンタリー映画『マッシリア・サウンド・システム、ル・フィルム』(クリスチアン・フィリベール監督、1時間40分)がフランス全国25軒の映画館で公開を開始した。商業配給ルートとは無縁の独立上映館ばかりなので、見逃したら(DVD化でもされない限り)二度と見れなくなる可能性がある、と思って初日の第一回上映(午後2時)にパリで唯一上映している5区の映画館に行った。観客7人。水曜日午後2時だからヒマ人以外は行かない、という見方と、パリ人はマッシリアに対して冷淡だという見方、両方考えられる。マッシリアの人気は、フランスを二分するロワール川以南と以北では全く異なり、南では絶大なものがあるが、北では親衛隊(南出身者)の数は少ない。

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 それはマッシリアの音楽が「パリの少数の人」に決定されるシステムを介していないことの証左であり、テレビやFMなどで全国的にプロモーションされることなどないからである。しかし80年代から今日まで30数年、中央のシステムを無視してマッシリアは成功し続け、南のスタジアムや町フェスティバルの巨大ステージにはどこも何千何万という人たちが集まってくる。おそらく北やパリの人たちには想像がつかないようだ。

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 ドキュメンタリー映画はその30周年ツアー(2014〜2015年)を密着して追い、その長寿と成功の理由を6人の現メンバーたちの証言で分析していく。マッシリア・サウンド・システムは1984年にマルセイユのストリートから発生したレゲエ/ラガ集団で、中心的なMCは数年後、ジャリ(パペー・J、本名ルネ・マザリノ)とタトゥー(ムッスー・T、本名フランソワ・リデル)の二人になり、現在もこの二人がバンドの顔である。だから、インタヴューになるといつもこの二人が答える傾向がある。この映画がいいのは、メンバー6人にほとんど均等の時間で語らせていて、私が何度かタトゥーに行ったインタヴューで知らされているマッシリアのイメージとは違ったものがどんどん見えてくるのである。

 まず、マッシリアはバンドではなく文字通り「サウンド・システム」(ジャマイカで発生した野外パーティー用の音響装置)であったということ。でかいスピーカーセットと、エンジニア(電気関係)、セレクタ(レコード回し。DJ)、MC(場を盛り上げるアジテーター)である。ジャリは本職が電気工事労働者で、サウンド・システムには欠かせない要であったが、それがマイクを持つやよどみなく出てくる即興ラガの名調子でいつしか筆頭MCになってしまう。まだ十代だったガリ(92年からマッシリアのMC)は、この街頭のデカい音に夢中で、すげえバンドの音だなあと思って近づくと、音楽はすべてジャマイカ輸入盤のB面でそれに乗ってMCタトゥーとMCジャリの名調子が煽るというだけのものと知り、これなら俺にもできると思ったのだ。タトゥーもジャリも楽器とはほとんど縁がないということで、マッシリアは凡百のストリート出身バンド同様、音楽的素養に乏しいのではないかと思われがちだった。もともとストリートにはそんなもの必要ないのであるが。

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