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[2019.02]「答えのないこと」へのまなざし 〜中村佳穂『AINOU』インタビュー〜

文●安東嵩史 text by TAKAFUMI ANDO

 京都出身のシンガー・ソングライター中村佳穂が2年半に及ぶ制作期間を経て発表した新作『AINOU』は、間違いなく2018年に発売されたアルバムの中でも最重要な作品の一つと言えるだろう。

 ピアノ弾き語りの雰囲気が色濃かった前作『リピー塔がたつ』と比べて、今作のサウンドにはエレクトロニカの影響を色濃く受けた2010年代中盤以降のR&Bやジャズを思わせる要素も大いに盛り込まれ、極めてトラックコンシャスで同時代的であることが話題を呼んだ。

 だが、『AINOU』が支持を集めている理由は、それだけではない。「I know」とも読めるタイトルが冠された本作には「You may they(筆者注:有名税、と読める)」などの曲名から後に言及するような歌詞に至るまで、人が他者と関わって生きることで生じる戸惑いや恐れ、クリックひとつで他者を記号化し、収奪してしまうことのできる時代を問うような言葉が多く登場する。前作とは大きく変化したこの言葉選びも、本作が多くの人々に届いている要因ではないだろうか。この快作について、中村に聞いた。

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撮影:森 建二

●作詞の方法が180度変わった

—— 新作『AINOU』に対して、すでに多くの賛辞が寄せられていますね。

中村佳穂 ありがとうございます。これだけ多くの人に届くとは思わなかったです。自分のことばかり考えて作った作品なのに(笑)。

—— とても印象的なサウンドに関しては多くのインタビューでもお答えかと思うので、今日は歌詞のことからお伺いしていきたいと思います。

中村佳穂 はい。

—— 今作では、やはり詞作が大きく変化したなと思っていて。全体に他者との関係性というか、お互いに自分の尺度で他者を測ってしまいがちな我々のあり方そのものに言及した詞が増えたことには、何か理由があるんでしょうか?

中村佳穂 詞の作り方は、確かに大きく変わりました。理由としては、『リピー塔がたつ』と『AINOU』で音楽の作り方が変わったことが大きいです。

『リピー塔がたつ』は先にお題が決まっていて、そこに向けて詞と曲を同時がババっと出てくるような作り方で。「どこまで」という曲なんかはものの5分でできたし、本当に、自分の中から出てきたものがそのまま曲になるという状態で作れたんです。ですが、『AINOU』に関しては、パズルのように、バンドメンバーが作ってくれた音に「一番ハマる言葉は何か」と考えながら詞を考えていきました。

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