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[2020.05]ポスト・コロナの日を待ちわびて|当たり前のように音楽や映画や舞台に接することが出来なくなり、余計にその大切さを実感しているアートを愛する者たちへ

文●圷 滋夫  text by SHIGEO AKUTSU

 コロナ禍により社会全体が全く先の見通せない状況の中、殆どの新作は公開予定が変更になる可能性があるが、ここでは3月末〜6月に公開予定で延期になった作品も含め、いつもより多く紹介しよう。3ヶ月分の中から厳選した作品なので、いずれも観応え充分の傑作ばかりだ。

『はちどり』①はキム・ボラ監督の自伝的初長編作で、中二の孤独な少女の揺れ動く心を見事に映し出す。ウニは家庭や学校、社会の中で様々な不条理と遭遇するが、塾で初めて心通わせ尊敬出来るヨンジ先生に出会う。男尊女卑、学歴主義、そして一番ままならない人の心が渦巻く美しくも厄介なこの世界で、もがきながらも生きる意味を探している。思春期の弾けるあどけない笑顔と複雑で微妙な表情、そしてこの時期にのみ一瞬だけ輝く微かな色気を永遠に留めた奇跡。また映画的センスに溢れた演出は既に成熟さえ感じさせる。誰もが思い当たる過去への郷愁と、ウニの未来へ向いた真っ直ぐな瞳が交差する珠玉の青春譚。

『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』②は、シアーシャ・ローナン史上最も溌剌とした魅力溢れるヒロインが、痛快な活躍を見せるあの四姉妹の物語だ。ウィットに富んだ会話と一捻り効いた展開、そして全ての俳優陣の的確な演技が見事に絡み合い、グレタ・ガーウィグ監督の脚本と演出の巧みさは風格さえ感じさせる。何より悪意に満ちた様々な感情(今はコロナもその一因に)が溢れるこの世界で、こんなにも心洗われる作品が生まれた事に胸を打たれる。19世紀が舞台だが、現代女性の自由な主張や権利に繋がる社会的な視点からもしっかり描かれているのが、いかにもグレタらしく頼もしい。

映画群1XXX

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