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[2017.06]連載 小松亮太のタンゴ場外乱闘 #12(最終回) だからタンゴってやつは

文●小松亮太 text by RYOTA KOMATSU

 小松亮太さんの著書『タンゴの真実』が発売されたことを記念して、過去の月刊ラティーナに連載した記事を掲載致します。


 先月号の本コラムについて本誌スタッフの坂本 悠さんから「なぜタンゴは思うように広まらないのか、ちょうど思案していたので面白く読めた」という感想をもらった。なので最終回は僕から悠さんへの公開書簡として、彼女の疑問に率直に答えてみたい。タンゴに関わって頑張る三十路を迎えたばかりの奇特な(?)女性への、僕からのサジェスチョンのつもりだが、反論をお持ちの方は、彼女にではなく僕に直接云ってください。

 そう。「なぜ」上手くいかないのか。この部分について本気で悩む習慣それ自体が昔からこの世界にはないのだ。例えば日本の場合、悠さんが生まれたバブル経済の末期。現在と比較すればまあまあタンゴの仕事のチャンスに恵まれていた人たちには、「自分たちはヨソの世界からどう見られているのかな?」と、思案しようという発想がなかった。この曲と、その曲と、あの曲さえ演奏すれば仕事になる、という「タンゴの様式美」さえ守れば少々いい加減なことをしても怒られない。良い演奏をするためにリハーサルを増やす? 新人バンドネオン奏者を育てる? そんなことをしたら経費がかかるじゃないか。既存の奏者たちが困るじゃないか。狭い世界を広くしようとすることは、音楽家や業界人にとっては新たに厳しい修練や矜持が求められることでもある。他ジャンルと比較されることもなく、しかし確実に一定数の仕事にありつける閉ざされた世界はむしろ快適だったのだ。優秀で貪欲な人々が渦巻いている他ジャンルの現実など眩しくて、視界に入れたくなかったのだ。

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