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[2019.08]ジョアン・ジルベルトと残されたトリロジー

文●宮田茂樹

text by SHIGEKI MIYATA

 ジョアン・ジルベルトは今年の7月6日、レブロン(リオ南地区)の自宅で88年の生涯を閉じた。訃報にふれたとき、正直に言うと、大きな喪失感や深い悲しみといった感情よりも先に、むしろ、ホッとしたというか、安堵したというか、胸にたまっていた澱のようなものがスッと溶けていくような気がした。

 ここ2〜3年折にふれてブラジルから聞こえてくるのは、公私ともに解くに解けない糸にがんじがらめになっているジョアンの情報ばかり。ずっと続いていた彼とのやり取りも途絶えていた。たまにインターネット上にアップされる近影には、魂をどこかに置いてきてしまったようなジョアンが写っていた。

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 僕にとってのジョアン・ジルベルトは何年も前に終わっていたのだろうか。ただただ長生きをして老醜を晒してほしくはなかった(すこし言い過ぎかもしれないが)。

 偉大なアーティストはこの世を去り、そして17枚のオリジナル・アルバムと一つのライヴ映像作品が残された。誰もが認めるように、それらは世紀の音楽遺産であり、そして音楽文化の至宝だと言える。

 さて、ここからが本題。17枚とは言ったものの、デビュー作『Chega de Saudade』を含む3枚のアルバムージョアン周辺の呼び方に従って、以下トリロジーは、現在は正規の音源で聴くことができない。ジョアン・ジルベルトと当該レコード会社であるユニバーサルとの金銭交渉に決着が付いていないからだ。しかも、あろうことかジョアン・ジルベルトはこの世を去ってしまった。ボサノヴァの聖典、偉大なるトリロジーが、このまま中途半端に埋もれてしまうなんて、音楽的にも歴史的にも大いなる損失だ。なんとかして世に出したい、と分不相応な気持ちは今でも持ち続けている。

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