[2018.07]【連載 TÚ SOLO TÚ #219】過去、現在と未来までを表現する 注目のキューバのビックバンド
文●岡本郁生
オバマ政権下で始まった米国とキューバとの関係改善だが、そのまま突き進むのか?と思われたところへトランプ大統領が登場。再び後退しているようにも見える。が、大きなスパンで見れば、おそらくこの雪解けの流れが逆流することはないだろう……
そんなことを改めて感じたのも、オルケスタ・アコカンのアルバムを聴いたからだろうか。もちろん、マーク・アンソニーとヘンテ・デ・ソナのコラボだったり、映画『Cu-Bopキューバップ』だったりと、エンタテインメントの世界での相互交流が日々、怒涛のように進んでいることは否応なく知らされているわけだが、このアルバムの成り立ちは、単なる共演とかゲスト参加といった段階をひとつ超えた、さらに先のステージに踏み込んでいるように思われる。
アルバムの解説を書いているのが、フェラ・クティのスピリットを継承・発展させながらニューヨークのブルックリンを拠点に活動するアフロ・ファンク・バンド、アンティバラスのサックス奏者、マーティン・パーナ(もともとテキサス出身のメキシコ系ということなので、マルティン・ペルナと書くべきか?)というのが、まず、興味をそそられる。彼の文章を少し引用してみよう。
Orquesta Akokan『Orquesta Akokan』(2018年)
「むかし、祖父は僕に〝ソパ・レバンタムエルトス〟というスープ、つまり〝死者を立ち上がらせるスープ〟を作ってくれた。オルケスタ・アコカンの新しいLPを聞いていると、キューバ音楽の巨人たちがスピーカーから立ち上がってくるのを感ぜずにはいられない。だが、精神を称え、世話をすることは簡単なことではないし、ひとつの世代だけに任されるべき仕事でもない。年長者たちは、伝統やジェスチャー、呪文を知っている。しかし、学習する義務、遂行する力、そして新しい精神のための新しい歌を作る炎と魂を持っているのは若い世代なのだ」
このプロジェクトの中心となっているのは、プロデューサーのジェイコブ・プラス(Jacob Plasse)と、アレンジャーでピアニストのマイケル・エクロス(Michael Eckroth)、そして歌手のホセ〝ペピート〟ゴメスの3人である。
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