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[2020.11]映画評|『燃ゆる女の肖像』|18世紀を生きた女性が現代へ伝えるメッセージと深い愛、 そしてめくるめく映画的興奮に満ちた傑作!

文●圷 滋夫(あくつしげお/映画・音楽ライター)

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 本作はある絵画についての物語だ。そしてその一枚の絵「燃ゆる女の肖像」に込められた、不思議な逸話と秘めた想いが少しずつ明らかにされる。

 18世紀のフランス。ブルターニュ地方の孤島にやって来た画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は、伯爵夫人の娘エロイーズ(アデル・エネル)の肖像画を依頼されていた。まだカメラが発明される前で、婚約者に渡す見合い写真の代わりになる絵だ。しかし以前エロイーズが結婚を拒んで画家に顔を見せなかったため、マリアンヌは散歩の相手と偽って接し、昼間は彼女を観察して夜に思い出しながら絵筆をとっていた。そしてやっと描き上げた肖像画を、事情を明かされたエロイーズは「私に似ていません」と否定し、意外にも「モデルになる」と申し出るのだが…。

 肖像画を描くことはまず相手を見つめることだ。そして相手の人間性を捉え本質を理解する。そんなシンプルな人との関わりの中で生まれる繊細な心の機微と深い感情を、本作はめくるめく映画的興奮に満ちた表現で映し出す。そして見つめる行為が様々な形に変奏されて何度も登場し、愛が生まれる瞬間のときめきとそのゆくえを、観客も見つめることになる。また二人の想いをいつも揺り動かすものとして描かれるのが美術や文学、音楽などの芸術であり、その絶対的な歓びを描いた芸術讃歌として本作を観ることも出来るだろう。

 本作では様々な二項対立の要素が描かれる。まず陽光きらめく昼の屋外では、はつらつとした躍動感が映し出される。そして蝋燭や暖炉の炎のみによって照らし出される夜の室内では、薄明かりの中にまるでレンブラントかフェルメールの絵が動き出したかのような光景が仄かに浮かび上がり、そこには息を呑むような映像の美しさがある。その鮮烈な明と暗の対比は、生と死をも思い起こさせる。

燃ゆる女の肖像/サブ2

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